第15話 Phase14
文字数 1,241文字
「俊ー」
昼休みに蒼が呼びに来た時、俊は驚いて椅子を盛大に鳴らしてしまった。
「あはは、驚きすぎ」
「いや、だって……どうした、あ、誰かに用事?」
「そうそう。俊に用事。昼、一緒に食べよう?」
蒼は手に持っている弁当を持ち上げてみせた。
「……俺と?」
「今僕、君に言ったよね? ほら、早く」
俊が誰かに昼ごはんを一緒に食べようと誘われるのはもちろん、誰かと話していることすらもめずらしいので、クラスメイトたちが見ている。視線に耐えきれなくなって、俊は仕方なく蒼と教室を出た。
「中庭行こうよ。そろそろ紅葉の時期だし」
俊は蒼に手を引かれるまま、中庭に連れて行かれた。
「うーん、まだちょっと早かったかな。イチョウとか、少し緑だね」
蒼は不満そうに口を尖らせた。一方の俊は、景色どころではない。
「蒼」
「何ー?」
呑気そうに振り向いた蒼は、放課後の顔をしていた。俊は息を飲む。
「……今日、ちょっとあってさ。話、聞いてくれないかな? 取り繕って話すのとか疲れちゃうから」
昼休みにわざわざ来るということは、よっぽど大事なことなのかもしれない。中庭は意外にも穴場で、人はまったくいなかった。屋上が開放されているので、みんなそっちに行くのだろう。俊はベンチに蒼と並んで腰掛けた。
「今日、クラスの人が話してるの聞いちゃったんだ。楽器とかくだらないことやってる奴らには、勉強で負けることなんてないって。まるで、吹奏楽部の人とかを馬鹿にしてるみたいで、気分悪かった」
俊は食べる手を止め、蒼を見る。蒼は手元の弁当を見つめたままだ。
「別に、私がギターやってるってバレたわけじゃないけど、なんか悔しくって」
俊の胸がズキンと痛んだ。数日前に、父にギターをくだらないもの呼ばわりされたばかりだ。蒼の気持ちはよくわかる。
「……俺も、父さんに言われた。くだらないことだって」
「俊くんも……」
黙り込んでしまった二人の目の前を、ひらりと一枚、落ち葉が舞った。
「……ごめん、暗くなっちゃった」
蒼は苦笑いしながら謝る。
「なんで謝るんだよ」
「え?」
蒼は虚をつかれたように固まる。
「……いつも、笑ってばかりだっただろ、蒼。愚痴とかもあんまり言わないし。でも、そういうのって黙ってたらつらいだろ。多少は、言ってくれた方が、俺も信頼されてるって感じる」
言ってしまってから、俊は我に返る。
(何言ってんだ、俺……恥ずかしい)
「……ありがとね、俊くん」
俊が何かをしたわけでもないのに、蒼はやけにすっきりとした顔をしていた。
「ねえ、これからも一緒にお昼食べようよ。私、ギター弾くときには嫌な感情入れたくないんだ。でも、ここでならそういう話してもいいって思った。だから、俊くんもそうしよう。それで、放課後にいい気分でギター弾こうよ」
蒼の目はキラキラと輝いていて、紅葉したどの葉よりも綺麗だった。
俊と蒼は目を合わせて笑う。照れくさくてむずがゆい気持ちの中に、言い表せない明るい感情が満たされていく。
肩がぶつかって、また笑い合った。
昼休みに蒼が呼びに来た時、俊は驚いて椅子を盛大に鳴らしてしまった。
「あはは、驚きすぎ」
「いや、だって……どうした、あ、誰かに用事?」
「そうそう。俊に用事。昼、一緒に食べよう?」
蒼は手に持っている弁当を持ち上げてみせた。
「……俺と?」
「今僕、君に言ったよね? ほら、早く」
俊が誰かに昼ごはんを一緒に食べようと誘われるのはもちろん、誰かと話していることすらもめずらしいので、クラスメイトたちが見ている。視線に耐えきれなくなって、俊は仕方なく蒼と教室を出た。
「中庭行こうよ。そろそろ紅葉の時期だし」
俊は蒼に手を引かれるまま、中庭に連れて行かれた。
「うーん、まだちょっと早かったかな。イチョウとか、少し緑だね」
蒼は不満そうに口を尖らせた。一方の俊は、景色どころではない。
「蒼」
「何ー?」
呑気そうに振り向いた蒼は、放課後の顔をしていた。俊は息を飲む。
「……今日、ちょっとあってさ。話、聞いてくれないかな? 取り繕って話すのとか疲れちゃうから」
昼休みにわざわざ来るということは、よっぽど大事なことなのかもしれない。中庭は意外にも穴場で、人はまったくいなかった。屋上が開放されているので、みんなそっちに行くのだろう。俊はベンチに蒼と並んで腰掛けた。
「今日、クラスの人が話してるの聞いちゃったんだ。楽器とかくだらないことやってる奴らには、勉強で負けることなんてないって。まるで、吹奏楽部の人とかを馬鹿にしてるみたいで、気分悪かった」
俊は食べる手を止め、蒼を見る。蒼は手元の弁当を見つめたままだ。
「別に、私がギターやってるってバレたわけじゃないけど、なんか悔しくって」
俊の胸がズキンと痛んだ。数日前に、父にギターをくだらないもの呼ばわりされたばかりだ。蒼の気持ちはよくわかる。
「……俺も、父さんに言われた。くだらないことだって」
「俊くんも……」
黙り込んでしまった二人の目の前を、ひらりと一枚、落ち葉が舞った。
「……ごめん、暗くなっちゃった」
蒼は苦笑いしながら謝る。
「なんで謝るんだよ」
「え?」
蒼は虚をつかれたように固まる。
「……いつも、笑ってばかりだっただろ、蒼。愚痴とかもあんまり言わないし。でも、そういうのって黙ってたらつらいだろ。多少は、言ってくれた方が、俺も信頼されてるって感じる」
言ってしまってから、俊は我に返る。
(何言ってんだ、俺……恥ずかしい)
「……ありがとね、俊くん」
俊が何かをしたわけでもないのに、蒼はやけにすっきりとした顔をしていた。
「ねえ、これからも一緒にお昼食べようよ。私、ギター弾くときには嫌な感情入れたくないんだ。でも、ここでならそういう話してもいいって思った。だから、俊くんもそうしよう。それで、放課後にいい気分でギター弾こうよ」
蒼の目はキラキラと輝いていて、紅葉したどの葉よりも綺麗だった。
俊と蒼は目を合わせて笑う。照れくさくてむずがゆい気持ちの中に、言い表せない明るい感情が満たされていく。
肩がぶつかって、また笑い合った。