第37話 Phase36

文字数 1,094文字

 「俊くん、本当にいいの?」
「いいんだよ。俺は戦うって決めたんだから」
 放課後、陸斗の店に向かいながら蒼はまだ心配していた。
「やりたいことは今のうちにやっておかないと。勉強なんて、いつでもできるし」
「いつでもできるって……」
 ちょっとあきれている蒼とともに店に入った俊は入り口で動けなくなった。
「俊くん? どうしたの?」
「……父さん」
「え⁈」
 蒼は驚いて俊の視線の先を見た。
「やはり、ここに来てたんだな」
 俊は顔から血の気が引くのを感じていた。
「間に合わなかった……」
 陸斗が携帯を握ったまま肩を落とす。その様子で、陸斗がこの状況を知らせようとしてくれていたのはわかった。
「塾をやめると言ったそうだな?」
「……俺は、塾なんか行きたくありません」
「行きたいか行きたくないかという問題ではない。行かなければいけないんだ」
 そこまで言うと、父は蒼に目を留めた。
「君は誰だね?」
「あ、えっと、わた……じゃなくて、僕、俊くんの友達です。(そう)()蒼といいます」
 俊の父は、値踏みするように蒼を見る。
「君も俊と同じようにくだらない遊びをしているのかね? まあ、人様の教育方針に口を出す気はないが……そろそろ真面目に進路を考えるべき時期だと思うがね。俊にはもう遊びはやめさせる。君も、将来のことをきちんと考えた方がいい」
「ふざけるな!」
 俊は声を荒らげた。
「勝手に決めるな。それに俺がやっていることはくだらなくなんかない」
 とうとう、俊は敬語をやめた。戦う。その意志をはっきりと表した。
「俺は俺の人生を生きているんだ。やりたいことも好きにやれないなんておかしい」
「甘えるな」
 父の圧のある声に、俊は押し黙った。
「うちは代々そうしてきたんだ。家業を継ぐのは長男の役目だ」
「俺は、医者になるつもりはないし、家業も継ぎたくない」
「我が儘を言うな!」
 とうとう雷が落ちた。俊も蒼も身をすくめる。
「……兄さん、店でそういうことはやめろ。今は一旦閉めておいたからいいものの、他にお客さんいたらどうしてくれるんだよ」
 陸斗の注意に、俊の父はフンと鼻を鳴らした。
「俊。帰るぞ」
「……嫌だ」
「なんだと?」
「嫌だ。俺、陸斗くんのところに泊まる」
「お前、どれだけ我が儘を言えば……!」
 父の手が振り上げられた。叩かれる。俊は思わず目をつむった。
「兄さん、俺の方なら大丈夫だから。一回頭冷やしなよ」
 陸斗がその手を止めていた。父は長く息を吐いた。
「知らんぞ」
 そう言い残すと、父は店を出て行った。
「陸斗くん、ちょっと外出てくる」
「うん。気をつけてな」
 俊はうつむいたまま出て行く。
「あ、あの、お邪魔しました」
 蒼は慌てて追いかけた。
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