第13話 Phase12
文字数 1,212文字
「ねえ、陸斗くん。陸斗くんって、歌とか歌ったりしないの?」
「歌? どうした、急に」
陸斗はカップを拭きながら俊を見る。俊は陸斗を見ているが、何か別のことを考えているようだった。
「俺、歌はあまり歌ったことないから、人前で歌うのとか恥ずかしいんだ。でも蒼には、みんなの前で歌えるって言われて……」
「蒼って、この前の子か?」
俊は陸斗が出してくれたミルクティーの表面をぼんやりと見つめる。
「そうだな、歌か……俺はバンドだったから、コーラス入れる程度で、あんまり歌ってないかな。でも俊と蒼くんは、二人でやってるんだろ?」
「うん……」
俊はうなずきながら静かにミルクティーをすする。
「それなら、歌えるに越したことはないと思うけどな。一人で歌ってるよりも、ハモってたりする方がきれいに聞こえたりすることあるだろ」
「そうだね……」
めずらしく歯切れの悪い俊を見て、陸斗は察した。
「蒼くんは、お前と同じように思ってたりはしないのか?」
「どういうこと?」
「一人でやってるなら歌も自分でやらざるを得ないけど、今は二人なんだろ? 彼にも恥ずかしいって気持ちはあるかもしれないぞ。俊だけそんな理由で逃げるのか?」
「う……」
俊はぐうの音も出なかった。たしかに、蒼の気持ちなんてまったく考えていなかった。
「それから俊。迷ってるってことは、お前の中に、人前で歌ってみたいって気持ちがあるからだよ」
「え……」
俊はどきりとした。図星を突かれたような気がして思考が止まる。
陸斗はそれ以上何も言ってくれない。ただ、店のBGMだけがゆったりと流れていた。
「……俊、電話」
陸斗に声をかけられて我に返った俊は慌てて携帯の通話ボタンを押す。
「……はい」
『俊さん? まだ帰らないのですか? もうごはんができますよ』
「今、帰りま……」
俊の手から、陸斗が急に携帯を奪った。
「お義姉さんですか? 陸斗です」
『え、陸斗さん?』
陸斗はスピーカーにしたようで、俊にも母の驚く声がはっきり聞こえた。
『どうして俊さんが陸斗さんのところにいるのですか?』
「学校帰りに会ったんです。なんだか具合が悪そうで。これから移動させるのもかわいそうですし、今日は僕のところで預かりますよ」
『いえ、でもそんな……』
「実は……俊くん、もう寝てしまいそうで。明日の昼には連れていきます。ええ、大丈夫ですから」
陸斗はその後少しだけ俊の母と話し、携帯を俊に返した。
『できるだけ、迷惑かけないようにしてくださいね』
「……はい」
俊は嘘をついていることを言い出せないまま電話を切った。
「てことで、ほどほどの時間までなら好きなだけギター弾いていいぞ」
俊はまだ呆けたように陸斗を見ていた。
「悩んだり、ストレス溜まってたりするときは、自分の好きなこと思いっきりやったらいいんだ。そうしたらなんとかなるもんだ」
「陸斗くん……ありがとう」
陸斗は俊の頭に手を置いて、照れくさそうに笑った。
「歌? どうした、急に」
陸斗はカップを拭きながら俊を見る。俊は陸斗を見ているが、何か別のことを考えているようだった。
「俺、歌はあまり歌ったことないから、人前で歌うのとか恥ずかしいんだ。でも蒼には、みんなの前で歌えるって言われて……」
「蒼って、この前の子か?」
俊は陸斗が出してくれたミルクティーの表面をぼんやりと見つめる。
「そうだな、歌か……俺はバンドだったから、コーラス入れる程度で、あんまり歌ってないかな。でも俊と蒼くんは、二人でやってるんだろ?」
「うん……」
俊はうなずきながら静かにミルクティーをすする。
「それなら、歌えるに越したことはないと思うけどな。一人で歌ってるよりも、ハモってたりする方がきれいに聞こえたりすることあるだろ」
「そうだね……」
めずらしく歯切れの悪い俊を見て、陸斗は察した。
「蒼くんは、お前と同じように思ってたりはしないのか?」
「どういうこと?」
「一人でやってるなら歌も自分でやらざるを得ないけど、今は二人なんだろ? 彼にも恥ずかしいって気持ちはあるかもしれないぞ。俊だけそんな理由で逃げるのか?」
「う……」
俊はぐうの音も出なかった。たしかに、蒼の気持ちなんてまったく考えていなかった。
「それから俊。迷ってるってことは、お前の中に、人前で歌ってみたいって気持ちがあるからだよ」
「え……」
俊はどきりとした。図星を突かれたような気がして思考が止まる。
陸斗はそれ以上何も言ってくれない。ただ、店のBGMだけがゆったりと流れていた。
「……俊、電話」
陸斗に声をかけられて我に返った俊は慌てて携帯の通話ボタンを押す。
「……はい」
『俊さん? まだ帰らないのですか? もうごはんができますよ』
「今、帰りま……」
俊の手から、陸斗が急に携帯を奪った。
「お義姉さんですか? 陸斗です」
『え、陸斗さん?』
陸斗はスピーカーにしたようで、俊にも母の驚く声がはっきり聞こえた。
『どうして俊さんが陸斗さんのところにいるのですか?』
「学校帰りに会ったんです。なんだか具合が悪そうで。これから移動させるのもかわいそうですし、今日は僕のところで預かりますよ」
『いえ、でもそんな……』
「実は……俊くん、もう寝てしまいそうで。明日の昼には連れていきます。ええ、大丈夫ですから」
陸斗はその後少しだけ俊の母と話し、携帯を俊に返した。
『できるだけ、迷惑かけないようにしてくださいね』
「……はい」
俊は嘘をついていることを言い出せないまま電話を切った。
「てことで、ほどほどの時間までなら好きなだけギター弾いていいぞ」
俊はまだ呆けたように陸斗を見ていた。
「悩んだり、ストレス溜まってたりするときは、自分の好きなこと思いっきりやったらいいんだ。そうしたらなんとかなるもんだ」
「陸斗くん……ありがとう」
陸斗は俊の頭に手を置いて、照れくさそうに笑った。