第33話 Phase32

文字数 1,063文字

 俊の部屋に入ってきたのは、俊の姉の璃子(りこ)だった。
「だめじゃん、飛び起きるとか」
 倒れ込むようにベッドに横たわる俊に、璃子はやれやれとため息をついた。
「姉ちゃん、大学は?」
「講義が休講になったのと、大学の入試重なって五連休だから。帰ってきてみたのよ」
 璃子は俊の四つ上で大学三年生。隣の県の私立大学医学部に通っている。
「久しぶりに帰ってきたら弟が熱出してるとか。診察の練習台になってくれる?」
「させねーよ」
 璃子は目だけでいたずらっぽく笑った。さすがは医学生、マスクはちゃんとつけている。
「……いつまでいるんだよ。感染るから出てって」
「何、心配してくれてるの? そんなことしてる暇あったら早く寝て治しちゃいなさい」
 そう言い残しながら、璃子は俊の部屋から出て行った。
(姉ちゃん、久しぶりに見た……元気そうだな)
 俊は深く息を吐く。
(姉ちゃんは、俺みたいに医者になれって言われてたか……? いや、姉ちゃんは自分で医学部に行くって決めてた。姉ちゃんは、進路を決められていなかったんだ……うらやましい)
 熱のせいか、目が少し潤んだ。
(だめだ。弱気になってる……戦うって決めたのに)
 俊は早く寝てしまおうと目をつむった。

 「ごめん、俊くん。私、やっぱり俊くんとはやっていけないよ。だって、俊くん本気じゃないでしょ?」
 そんなことない。言おうとしているのに、声が出ない。
「私、一人でがんばるから」
 なんでそんなこと言うんだ。ここまで一緒にやってきたんだ。俺だってがんばるから。だから、見捨てないで。

 「蒼……!」
 俊はハッと目を開けた。何もない空中に手を伸ばしていた。
(夢、か……)
 ほっとするのと同時に、俊は不安になった。もしかすると、現実になってしまうのではないかと。
(俺は、本気じゃないのか……? だとしたら、蒼の足を引っ張っているのかもしれないし。それなら、蒼が一人でやるって言い出す可能性もゼロじゃない)
 考えすぎて、頭の中がグルグルと回っているようだった。それでも、俊は考えるのをやめない。
(もし蒼が一人でやるって言ったら、それを止める権利は俺にはない。けど、がんばれって言えるほど、俺も大人じゃない。でも、蒼の負担にはなりたくないし……)
 ため息が出そうになったとき、ドアがノックされた。
「俊ー。あんたの友だちが来たんだけど、起きてる?」
「起きてるけど……友だち?」
「そう。あがってもらったから。蒼くん、起きてるみたいだから大丈夫だよ」
 璃子がドアを開け、入ってきたのは蒼だった。
「蒼……」
 俊は体を起こして、蒼を見つめた。
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