第47話 Phase46

文字数 1,106文字

 「俊、度胸あるなぁ」
「その度胸の結果が今なんだけど……」
 驚いたように苦笑いする陸斗の前で、俊は盛大にため息をついた。
 ため息の原因は、昨日のことだ。


 「……父さん」
 俊が声を掛けると、父は返事はせずにじろりと一瞥してきた。その冷たさに、息が詰まるような感じがする。
「あの、話があります」
「お前から聞かなければならない話はないはずだが」
 父は俊を拒絶するように新聞を広げた。
(聞く気はないってことか。いつもだったらこのまま引き下がるけど、今回だけはそうするわけにはいかないんだ)
「ら、来月、学校祭があります」
 震えそうな声を必死に落ち着かせながら、俊は言葉を繋いだ。父はぴくりとも動かず無反応だ。
「父さんに見てもらいたいものがあります。学校祭を、見に来てください」
「そんな暇はない」
 父はバッサリと切り捨てた。
(当然か。その日に仕事がないとも限らないし。誰かにビデオとか撮ってもらったら見てもらえるだろうか)
 俊はその場で頭を働かせていた。どうしても見てもらいたい。たとえ、認めてもらえなくても。
「それで話は終わりか?」
 新聞を置いて立ち上がった父の圧を感じて、俊は思わず一歩下がった。
「くだらんことだ。それが将来何の役に立つ。時間の無駄だ」
「時間の無駄なんてことはないと思います。少なくとも、俺にとっては意味のある時間です」
「では、それを見に行くことが俺の時間の無駄にならないと言い切れるのか? お前にとって意味があったとしても、俺には関係のないことだ」
 父の言葉に俊は反論できなかった。父は黙ってしまった俊を置いて、リビングを出ていった。
(失敗か……まあ、最近父さんに逆らってばかりだし、自業自得とも言えるな)
 俊は予想通りだったという落胆と、微妙な安堵を抱えて部屋に戻った。


 「お前、変わったよな」
 陸斗はどこか嬉しそうに言う。
「俺が? 変わった?」
「そう。蒼くん、だっけ? 彼と一緒にいるようになってから変わったと思う。なんて言ったらいいかわからないけど……すごくいい顔してるよ、俊」
 陸斗にそう言われて俊はなんとなく納得した。
「俺、蒼といるようになってから楽しいんだ。蒼といると楽で……本当にやりたいことやってるから、なんていうか、生きてるんだって思えるようになった」
「その気持ち、忘れるなよ」
 陸斗は俊の頭をなでた。
(俺、もう高校三年生なんだけど……)
 俊はそう思ったが、陸斗の手つきの優しさと温かさのせいで振り払うことができなかった。
「俊くん! 遅くなってごめん!」
 しかし、駆け込んできた蒼の声を聞いた途端、俊は立ち上がって陸斗の手は頭から離れた。やっぱり、蒼には恥ずかしくて見せられなかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み