「ウツロ、これがわたしのアルトラだよ」
伸びあがった
黒髪が、ヘビのようにしゅるしゅるとうねって、
似嵐鏡月の
腕に、
胴に、首に
巻きついた。
「なっ、なんだこれはっ!?」
「あはは、
叔父様! このままペシャンコにしてあげるよ!」
ギリギリと
締めあげるその力に、彼はもがくことしかできない。
星川雅の変身、その
異形の姿に、ウツロとアクタは息をのんだ。
彼女の
形相はまさに、
獲物を
嬲るヘビのそれだ。
「
暴れたのと、二人ががんばって
叫んでくれたおかげで、
期せずしてだけれど、
正気に
戻れたよ」
似嵐鏡月はもはや、言葉を
発することも難しいほど強く締めつけられている。
その苦しむ様子を、彼女は舌をなめながら観察している。
「どう?
驚いたでしょ? ゴーゴン・ヘッドって名前なんだ。こうやって髪の毛で相手を弱らせてから、そのあとね――」
「――!」
ヘビの髪が
捕らえた獲物
を
中空へ持ち上げ、そのまま少女の
頭上へと
引き
寄せた。
星川雅の
後頭部がパックリ
割れて、とがった歯と、バカでかい舌が姿を現す。
「この大きな口で、むしゃむしゃ食べるんだよ」
舌なめずりをする大きな口に、似嵐鏡月が運ばれる。
「バケモノ……」
アクタは思わず、そう
呟いてしまった。
「バケモノ? そうだよ、わたしはバケモノなんだよ、アクタ? ヘビの
触手とこの
大口、これがわたしのアルトラ、ゴーゴン・ヘッド。バラの花みたく見えない?」
星川雅はケラケラと笑っている。
「うふ、ゴーゴンはギリシャ神話の怪物、バケモノのことだものね。気に入ってるんだ、このネーミング」
彼女は
呆然とするウツロのほうを見た。
「どう思う、ウツロ?
醜いでしょ、わたしの姿は。アルトラとは精神の投影。つまり、わたしの心は、こんなにもおぞましい醜さってこと」
言葉にならない。
どう声をかければよいのか――
ウツロの
心境は
悲痛だった。
「毒虫がどうとかって言ってたよね? それがなんなの? この醜さに比べれば、毒虫が何よ? わたしがどんな思いで、こんなのと向き合ってきたと思う? 地獄の苦しみだよ。これがわたしの
正体なんだ、わたしの心はこんなに醜いんだ、ってね」
自分の放った言葉で
感傷的になり、星川雅は急に、切ない顔になった。
「ウツロ、こんなわたしを、愛してくれる?」
ウツロには確かに見えた。
そう言った少女のまなじりに、光るものが――
(『第48話
涙』へ続く)