第4話 師の告白、そして――
文字数 2,619文字
何を言っているんだ?
ウツロとアクタの口は、麻酔をかけられたように
世界が崩壊してなお、何が起こったのか理解できないでいるような、間抜け
「……なん、と」
アクタがやっと
「わしはいままで、殺人の
二人の世界が崩れ出す。
口から魂が抜け出てもおかしくないような顔だ。
誰でも知っているに、誰にも答えられない命題。
そんなものを提示されたような無情感が、彼らを襲う。
「なぜ、ですか……ご教示ください、お師匠様……」
意識が遠のいていくような感覚の中、アクタは亡霊のような口調でたずねた。
「もう疲れたのだ。身を立てるためとはいえ、人様の命をみだりに奪うことにな。わしが一人、
似嵐鏡月は、
「アクタ、ウツロ。身寄りのないお前たちを引き取り、育ての親となったのは、確かにこのわしだ。わしはお前たちに
似嵐鏡月は、
「……お師匠様」
アクタはどう返せばいいのか、わからずにいた。
「だからわしは考えた。いまからでも遅くないと。廃業し、けじめをつけた上で、お前たちを自由の身にしてやりたい。こんな隠れ里から出して、もっと広い世界を見せてやりたい。当たり前の、『普通』の日常を、お前たちに取り戻して――」
「お師匠様あっ!」
ウツロの勢いあまった大声に制され、似嵐鏡月とアクタはびっくりして、口をつぐんだ。
「俺たちにとって……親があるとすれば、お師匠様、あなたこそが、そうなのです……」
「俺は……肉親によって、捨てられました。この世に必要ない、いらない存在なのです」
「ウツロ……」
似嵐鏡月は悲痛な
「ですが、お師匠様。あなた様は……こんな俺を、不要の存在の俺を……拾い上げてくれた……手を差しのべてくださった。衣食住を与えてくださった。学問を教えてくださった。生きていくためのあらゆる
「……ウツロ。お前を不幸したのは、このわしであるのに……」
「不幸だなんて、とんでもないことでございます! 俺は、最高に幸福です! お師匠様が、そしてアクタが、一緒にいてくれる。俺にはこの里の暮らしが、幸せでならないのです。これ以上、何を望みましょう? ですからお師匠様、そのような弱気に、ならないでください!」
「なんという……ウツロ。だが、お前たちを……わしと同じ闇の中へは、魔道へなど落としたくはないのだ」
「魔道、喜んで落ちます。俺は、世界が憎い。俺を捨てた世界が、俺を全否定したこの世界とやらが。お師匠様のためなら、こんな世界なんか粉々に破壊してやる。愛される者を、愛する者の目の前で、八つ裂きにしてやる。世界中の人間が、俺を憎めばいい。それが、俺の世界への復讐なのです。その本懐のためなら――魔道、喜んで落ちます」
彼の
「お師匠様、俺もウツロと、まったく同じ気持ちです」
「アクタ……」
「俺は、ウツロを本当の弟のように思って、いや、ウツロは俺の弟です。俺は兄として、ウツロを傷付ける存在を、絶対に許さない。ウツロにこんな仕打ちをした世界が、消えてなくなるまで戦います。世界の頂点でへらへら笑っている奴を、俺たちの存在に気付こうとさえしないような奴の
「……アクタ、何でそこまで」
アクタの同調に、口火を切ったウツロですら驚いた。
「何度も言わすな。俺たちは二人で一つ。お前の敵は、俺の敵だ。お師匠様、
似嵐鏡月は、両眼を深く閉じて二人の話を聞いていたが、突然カッと見開いて、話し出した。
「いや、撤回はせん。これだけは
「なぜでございますか、お師匠様!」
「平に、平に理由をお聞かせください!」
ウツロとアクタは、どうしても納得がいかない。
稼業から身を引くという決意を、なぜ師は
「ならば話そう。話さなければ、お前たちの気持ちを踏みにじることになる」
似嵐鏡月は、重いその口を開いた。
(『第5話