第18話 幕間劇

文字数 397文字

「自己否定ね」
「えっ?」

 医務室を出た真田龍子(さなだ・りょうこ)は、弟を部屋へ戻し、星川雅(ほしかわ・みやび)と立ち話をしていた。

「きっと何か、トラウマを抱えているのね。あまりにも強すぎるトラウマを。そこから発生する強烈な自己否定。彼の場合――自分は人間ではない、虫か何かのような、おぞましい存在だという強迫観念に取りつかれているのよ」
「……なんて、こと……」
「龍子、ここを案内する必要があるから、悪いけれど――」
「雅は?」
「『上』に報告だね。それに、わたしは嫌われてるから。龍子と違って、ね?」
「あっ……」

 手の甲で星川雅は、真田龍子を軽くつついた。

「じゃ、お願いね」

 その手を翻して、足早にその場を去っていく。
 残された真田龍子は立ちつくした。

 ……ウツロくん……どうしてこんなことに……あんな、優しい子が――

(『第19話 ラブコメディ』へ続く)
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登場人物紹介

ウツロ(男性、16歳、身長175cm)


孤児だったが、似嵐鏡月に拾われ、アクタとともに育てられる。

アクタのことは兄貴分として、似嵐鏡月のことは師として慕っている。


トラウマが強く、「自分は人間ではない、毒虫のような存在だ」という、自己否定の衝動に苦しめられている。

それに向き合うため、哲学書や思想書を愛読している。

好きな思想家はトマス・ホッブズ。


剣術・料理を得意とする。

アクタ(男性、16歳、身長185cm)


ウツロと同じく孤児であり、似嵐鏡月の手で育てられた。

ウツロのことは、よき弟分としてかわいがっている。


明るく、気さくで、考えることは面倒な性格。

自分を責めるウツロのことを気にかけ、何かにつけて助け舟を出す。


力が強く、体力があることから、体術に秀でている。

似嵐鏡月(にがらし・きょうげつ、男性、30代後半、身長190cm)


孤児だったウツロとアクタを拾い上げ、隠れ里で育てた。

暗殺を稼業とする殺し屋であり、ウツロとアクタを後継者にするべく、その技術を伝授している。

マルエージング鋼製の大業物『黒彼岸』を愛刀とする。

真田龍子(さなだ・りょうこ、女性、黒帝高校1年生)


傷ついたウツロを救出し、献身的に看護する。

性格は明るく、勉強もできるが、運動のほうが得意。


仏のような慈愛・慈悲の心を持つが、それは過去のトラウマから派生している。

ウツロに対し、特別な感情を抱く。


真田虎太郎は実弟。

星川雅(ほしかわ・みやび、女性、黒帝高校1年生)


精神科医を両親に持ち、鋭い観察眼を会得している。

気は強いが、冷静沈着。

しかし内面には暗部を隠し持っていて、それを悟られないよう、気を使っている。

ウツロに『アルトラ』の存在を教える。

南柾樹(みなみ・まさき、男性、黒帝高校1年生)


ウツロには何かにつけて、きつく当たるが、それは彼が、ウツロに自分自身を投影してのことだった。

料理が得意。

真田虎太郎(さなだ・こたろう、男性、黒帝中学校1年生)


真田龍子の実弟。

頭脳明晰だが、考えすぎてしまう癖がある。


音楽をこよなく愛する。

好きな作曲家はグスタフ・マーラー。

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