第2話 いつも通りはありがたい

文字数 3,005文字

「昂樹さん。あなたはどう思うかしら。新しい軽音楽部員達を。」
「なんだよ玲華さん。その含みのある言い方は。」
いつも通り、昼休みに屋上で飯を一緒に食べながらいつも通り分析会議をしていた。
「うーん、ボーカル志望のやつらに関しては全く分からんし本当の実力も新入生が1番最初にステージに立つ『若葉ライブ』で分かると言っても過言ではない。その前提はあるのは分かるよな?」
俺が玲華さんに目線を合わせ直すと、玲華さんは真剣な表情で「そうね。」とだけ返した。そして俺が話を続ける。あくまで自分個人の意見なのに、他の部員。特に後輩からは「的確だ!」と言われ、「部長の慧眼」とやたらはやし立てられるのが最近はあまり良いと思ってはいない。もちろん、高校3年生の俺が間違っていることなんて数えたら日が暮れるどころか朝日が昇るほどある。それは軽音楽部部長だろうと、生徒会会計だろうとミスはある。そのミスも込みで慧眼とは馬鹿馬鹿しいにもほどがある。そう思いながら玲華さんの顔をまじまじと見つめて意見を述べていった。
「ただ、楽器体験の段階ではギターは矢崎さん、ベースは藤井(ふじい)さん。ドラムは高木さんを中心としたガールズバンド系の代になるだろう。って読みだ。もちろん、三納くんや真野くん。吉川くんといった男子も注目度は高いが皆どっちかっていうと『自分が中心になる』っていうよりも『自分はみんなを支えたい』って性格だと思ったからあの代の中心になるのは今の段階では矢崎、藤井、高木の3名にボーカルとキーボードから各1名って感じになると思う。」
玲華さんの整った顔をジッと見つめながら俺は淡々と語り続ける。時々、玲華さんが頷いたり相槌を打つことで俺もどんどん話し込んでしまう。こういう所は話したがりの玲奈の話を普段から聞いていたからなのかとても聞き上手なお姉さんだ。
「それを、浩人や林に小田。村井といった俺たちの1個下の代がどれだけ面倒を見れるか。じゃないか?」
俺は一通りの意見をまとめたところで、玲華さんに手を向けた。もちろん、「そっちは?」の意味で。それを見て彼女は話し始める。
「そうね…おおよその意見は昂樹さんと変わりないわ。確かに、彼女たちの技量は現時点でも私たちに匹敵するだけのものはあるでしょう。それを支えるボーカルやキーボードが男性であるならバランスの取れた実力、結束共に歴代最強レベルの耀木軽音部になれるのではないかしら。ただ、問題があるとすれば性格かしら。高木さんの甘えたがりで自由奔放な妹っぽい所も、今は私たちが先輩として支えてあげられているから成り立っているものの彼女たちが最上級生になった時もあの性格のままだと色々と支障をきたしそうね。まぁ、性格に関しては私や昂樹くんが玲奈の件がキッカケで異常に達観しているという点があるのだけれども。」
そうか。玲華さんの話を聞いて俺はハッと思わされた。空を見上げて一回自分の思考を整理する。玲華さんの話を聞いて自分が思ったことを何とかまとめながら俺はもう一度視線を真正面で床に座って向かい合っている玲華さんの顔に落とした。なるほど、いつも誰かを見るときについつい自分を基準に考えてしまいがちだがその基準が壊れている。ということか。
「なるほどな。そう言われると、俺たちが最愛の人を亡くした影響で異常にませてしまったから相対的に彼女たちが幼く見えるだけで、普通の生活をしてきた高木さんは確かに年相応の性格なのかもしれないな。」
「でも、矢崎さんは高木さんとすぐに打ち解けていたし藤井さんも面倒見がいい性格だと思うって中江さんも言っていたから意外とあの性格のままでもうまく回るんじゃないかしら?」
なんだよそいつは。ってか、律のやつもう新入生と仲良くなれているのか。流石の姉さん力だな。どこかのクールビューティーとは違って。
「あら?私の顔に何かついているかしら?」
そう、このクールビューティーとは違って。
「いや、お前って基本的に人見知りだよなって。」
「…。」
あれ?これは…地雷を踏みぬいたか?
「仕方ないじゃない。玲奈があれだけ首を突っ込んでいく性格だから姉の私は警戒して人に接するようになったのよ。」
「なるほどな…。俺がどうこう言っても治るものじゃなさそうだな。」
「ええ…。」
玲華さんは顔をうつむかせて俺とは全く視線を合わせる気が無くなってしまった。全く
「性格に関しては俺達が四の五の言っても矯正できるもんじゃないから上手くやってくれることを祈るしかないってことか。もう!」
俺はそう言いながら背を伸ばして気持ちをリフレッシュさせていた。


「おー疲れ!友貴也!」
「お疲れ。純平。」
俺はいつも通り、朝練から教室に来た純平や横田や浮田たちを教室で迎えていた。
「いやぁー、新しく入ってきた後輩がさー、本当に物言いがキツイ子でさあー。」
「本当にっ!なんで後輩ってあんなに生意気なのかしら!」
この吹奏楽部コンビも板についてきたな。そう思いながら俺はニコニコとしながら2人の様子を見ていた。横田は浮田のことが好きで、でも浮田の好意が俺に向いていることもどこかで気づいている。やっぱり、この2人が幸せになるためには俺が身を退いた方が良い。なら、その身の退き方は自分が音楽に没頭することで恋愛には1ミリも割く気力がない。という風に持っていくのが正解なのだろうか。
「なにあの二人を見てニヤついてるんだ?友貴也。」
左肩を叩かれながら、聞きなじみのある声が右側から聞こえてきたので俺は何も考えずに振り返った。
「おお。いたのか。浩人。」
「『いたのか。』じゃねーよ。全く…お前は考え始めると周りの音が聞こえなくなる癖。直した方が良いと思うぞ。俺は何回もおはよう。って声をかけたわけだし。」
浩人が明らかにムスッとしながら俺に喋り始めた。だが、その癖は治ると思ってる方が間違いだと思うんだよな。
「すまない。これでも出来るだけ注意してるんだ。許してくれ。」
「分かってるって。お前もわざとじゃないことぐらいは分かってる。」
「ありがとうよ。」
「構わんさ。」
そういう会話を浩人と繰り広げていると、今度は横田と浮田がニヤニヤしながら俺たちの方に熱い視線を向けていた。
「「どうした?」」
二人の声が揃った。すると、向こうもそろった声を出して答えてくれた。
「いやぁー、浩人と友貴也ってコンビも板についてきたなぁーってー。」
「ゆーくんと高橋くんのコンビが板についてきたんじゃない!?」
全く…こいつらは…そう思いながら俺は声を発すると
「「お前らほどじゃない。」」
何の因果か知らないが、また浩人と声が被ってしまった。全く…こう言う所がこのコンビが板についてきた。って言われている由縁なんだろうな。そして、すかさず俺は畳みかけた。
「浮田。お前と横田も充分に名コンビだからな?」
「ええぇーっ、私はゆーくんと名コンビになりた…」
言い切る前に頭をパーでしっかり叩いておいた。浩人や横田、純平にいつの間にか来た柿谷さんも笑っていた。
「全くー、ことみ。そろそろ友貴也を諦めよー?」
「いーやーでーすー!」
「諦めなさい!」
そういいながら柿谷さんは浮田に俺を諦めるように説得していた。普段はチャラついているような柿谷さんも今だけはありがたく見えるのだった。
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