第35話 10月 ファンミーティング

文字数 1,585文字

 大学のカフェで本郷さんと待ち合わせ。
早く着きすぎたので、暇つぶしにスマホで『マジカル・カンファレンス』を検索。ザッとスクロールする。

 《眠りに落ちた先の無意識下次元、チームで戦う通称『特待生』たち。
主人公をはじめ、能力者たちは保健室登校。
ダークマイナーエネルギーをまき散らす、隠れている犯罪者の精神を殲滅させるのが目的。
敵を倒すごとに国債奨学金が支給されて、ポイントが貯まれば州立防災技術開発大学校、通称防開大に進学。卒業後、公務員になれる。研鑽(けんさん)を積めば上級州国民も夢ではない。
そして主人公は、偏差値が低いためシステムに干渉するような技術は持てず、代わりに体を張って身を削りながらインナーバトルフィールドにダイブする日々。

 ちょっと待って。第1話は『チカンにお仕置き!』ゆるいタイトルなのにどうしちゃったの? 
第2話も『恋の賞味期限切れ』不倫をしているOLから漏電するマイナスエネルギーを修復する話で、第3話では男子チームと喧嘩なんかしているし。
いったいどのあたりで世界観が確変しちゃったの?

 DV、サイコパスのアイドル、集団レイプ犯、殺人鬼、呪術師、洗脳者、教祖、テロ組織と話が進むにつれ敵が厄介になっていき、主人公たちも満身創痍(まんしんそうい)
登場人物何人か廃人になっている。
壊した敵の魂は『死骸化調整区域(しがいかちょうせいくいき)』に廃棄。
え? 仲間のバジルも廃棄されているじゃない。
えーと、スペアのデータを注入して再起動させられる? なんでも有り?

《キャラクター》
シナモンは高校1年の劣等生。
中学校の卒業式の帰りにサラリーマンからレイプされそうになり心に傷を負う。それから心的エネルギーが漏電し無気力となり、高校は保健室登校に。
能力は、”掃除屋兼解体屋(スイーパー)

 ……主人公がこんな鬱展開? 
ドジっ子みたいなお茶目な表情と合わないんだけど。

 同級生のナツメグはバドミントン部。
能力は、”剪定鋏(パイプカット)”。
大きなラケットケースに剪定鋏を入れて持ち歩く。
父親が酒乱で早く独立したい。そのため国債奨学金ゲットに燃えるクールビューティ。
レイプ犯の神経を剪定して不能にした回のインパクトで、男人気は無く女人気のみだって。

 2年生の先輩カルダモンの能力、“鬼女使い(スレッド)” 
モブを使って、サーチ能力と相手の力を少しずつ削っていく能力はピカイチだが出力が安定せず、味方もダメージを食らうときがある。
……これって悪役の能力じゃない。

 私立エリート校で魔法経済学を習得した努力家、ローズマリーの 
魔法仕訳P/L B/S(フンショク)” “損益分岐点の悪魔(トントン)
 “連結異次元決算(チョウセイ)” とか、
公立トップ校で魔法律学を極めた秀才、クローブの “改訂条例使い2.5(ジチタイルール)” 
こっちの方が断然カッコいいじゃない、推せるわ。

「村瀬ちゃんおまたせー、みんな来たいって言うから連れてきちゃったー」
 本郷さんの後ろに、ササヤン、オギちゃん、服部のいつものメンバーがニコニコして手を振っている。今日は本郷にこっそり聞きたいことがあったのになぁ。
心とは裏腹に私もつられてニコニコ。

「この前、チラッと見たラインで気になったワードがあったんですけど」
 この人達話が脱線しやすいから、本郷に単刀直入に切り出す。

「百川終了とか、危機一髪とか、ビンタ? あと、『もな』って誰ですか」

 ササヤン、オギちゃんが本郷を(にら)みつける。「やらかしましたな」という表情で。本郷はヘラヘラ笑っている。
「あーそれっていうのはアレですかな? 百川と村瀬さんが破局かって界隈が祭りになってですね、盛り上がってあることないことを」

 ササヤンが早口で誤魔化そうとしているのが伝わる。
ササヤン、多分あなたは嘘が下手な人種です、あなたの初手で、何か隠そうとしたのが伝わりました。
「8月の話っすよね、俺たちスレタイっぽくラインしていた頃」
 オギちゃんの浮ついた声に、服部が被せるようにはっきりと言った。

「百川浮気したんですよ」

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登場人物紹介

近藤 優名(こんどう ゆうな)


2018年泉水工業医療大学(理工学部)合格。それまでは母と叔母(母の妹)の近藤彩と3人暮らし。明るく前向き。胸キュンの少女マンガが好き。


「彩ちゃんは工場の技術職でカッコいいの。私も早く就職して一人前になって2人に楽をさせたい」


村瀬 芽依(むらせ めい)


バイオ化学システム1年 103号室 華奢で童顔。やや三白眼な瞳が猫っぽい。理知的で控え目な女の子。

「高校時代はガリ勉陰キャで試験しかイベントが無かったな……大学ではとにかく出来事を起こしたい」


百川 諒(ももかわ りょう)


環境工学システム2年 201号室 合気道部。ガッシリとしていて一見強面で老けている。チャラい女が嫌い。霊感があり、見える人。

二宮 治子(にのみや はるこ) 


コーポ種原とたんぽぽ食堂のオーナーで資産家。たんぽぽ食堂の2階に住んでいる。霊感があり、見える人。噂話が好きで少々おせっかい。

畑中 麻美(はたなか あさみ) 


たんぽぽ食堂の調理師 203号室 野菜中心のヘルシー献立が得意。優しく穏やかでオアシス的存在。

北里 聖子(きたざと せいこ) 


芽依と同じ学科 色白で美肌、おっとりとした性格で頼まれると嫌と言えない。最近妙な噂が……

坂入 碧(さかいり みどり) 


芽依と同じ学科 見た目はゆるふわだが、潔癖症ではっきりした性格。BL好き。「最初につき合う人は慎重に選びなさい」というお祖母ちゃんの教えを守り、恋愛には臆病。

仲野 紫織(なかの しおり) 


芽依と同じ学科 恋愛にはアクティブ、サッパリしていて明るい性格。

麦倉 宗太(むぎくら そうた)


電子工学システム3年 202号室 彼女募集中のちょっぴり挙動不審なオタク。ぼんやり霊が見える人。

八島 柊人(やしま しゅうと)


機械工学システム1年 102号室 長身でルックスはいいが、いつも一言余計で金にうるさい。霊感ゼロ。

大山 仁市(おおやま じんいち) 


もと校長先生の民生委員 101号室 虐待児童や貧困児童救出に日夜奔走している。物腰は謙虚で上品。あの世から定期的に視察が来る。

服部 司


村瀬芽依マニア 泉工医大バイオ化学システム 浪人しているため芽依とは同い年だが学年が1つ下


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