第32話 10月 深夜アニメ『マジ・カン』クラスタの皆さん~史上最大のモテ期~
文字数 2,049文字
私はポトスの影に身を潜める。
私対男4人。男と一対一はダメだって先輩言っていたけど、これはどうなの?
先輩が想定していなかっただけで、これも説教されるよね。
「あの、お願いですから本当にもう騒がないでください、終わったことだし、怒っていないので」
服部がグジグジ謝っていて、鬱陶しくなった私ははっきりと言った。
「でも僕のこと、怒ってはいなくても怖がっていますよね、絡みたくはないと思っていますよね」
そりゃそうでしょ。
するとまとめ役らしいポチャ男が、
「服部しつこい、粘着すると更に嫌われますぞ。暗い夜道で追いかけて怪我させたのに許してくれるなんて、それだけで天使ですぞ」
見た目はオタク、話し方もオタクだけど、意外とポチャ男は常識的で話が通じそう。
それより、向かいのにこやかなデブから細部をすごく見られている。
これは気のせいじゃない。トートバッグを胸の前に置いてガードした。でもこの4人の中では、デブのポテンシャルが一番高いように感じる。
私を見ながらしきりにテーブルの上で人差し指を動かしていて、その指が発光している。
「ホラホラ、レンコン氏も、いくら実写版サフラン先生が目の前にいるからって、はしゃぎ過ぎですぞ」
「サフラン先生?」
「おや、ご存じない? 我々『マジ・カン』クラスタの間じゃ、村瀬さんは有名人ですぞ」
ポチャ男は3年生で電子工学システムの佐々木といった。愛称ササヤン。
ヒョロ男は機械工学システム2年生の荻野、愛称オギちゃん。
デブは留年して今年2回目の環境工学システム3年生、本郷。レンコンというのは多分アカウントかな。
服部は服部。バイオ化学システム1年生。
みんな、それはそれは楽しそうに話し出した。
深夜アニメ『マジカル・カンファレンス』、略して『マジ・カン』は現在第2期目。
主人公は女子高校生シナモン。
世の中に影響を与えるダークマイナーエネルギー駆除のレベルに応じて、国債奨学金が支給される日本州国が舞台。
シナモンの学校はFランだけど、男子チームやエリート校のライバル、ローズマリーやクローブ達と競い合っているという設定。
仲間にナツメグ、先輩にカルダモンとバジルがいる。
第1期が修行編『スリーパー・スイーパー』、そして今期の第2期はバトル編『偏差値35の逆襲』
保健室のサフラン先生はサブキャラだけど、ツンデレに固定ファンが多いらしい。
「寝ていれば治るわよ」が口癖で見た目素っ気ないけど、内心はとっても心配性。二人きりになると、ホットミルクを作ってくれたり、怪我の治るおまじないをしてくれたり、甘えさせてくれるらしい。
そのキャラに私が似ているんだそうだ。
みんなが、とくに服部が嬉々として頭を掻きながらプレゼンをしてくれた。
「オリエンテーションの時、村瀬さんを一目見てすぐに気がつきましたよ。その時はショートカットで今よりダサかったけど」
すごいでしょう? と得意げ。なんか悪口が挟まれているけど。
「みんな、落ち着いて。私みたいなアニメキャラなんているわけないでしょう。女子が少なすぎてみんなの感覚がおかしくなっているんだと思う、もっと冷静になった方がいいと思います」
と手で制しながら話すと、また服部が鼻息を荒くしてスマホの画像を見せてくれた。
あ……三白眼のキャラだ、焦げ茶色の猫目、それに偶然夏休みの間に伸びたボブヘアと斜め前髪がそっくり。
そしてシナモン、バジルはぱっちり黒目のタヌキ顔巨乳に対し、サフラン先生はスレンダーといえば聞こえはいいけど、貧乳……。つい思わず、
「目つきの悪さと、髪型と貧乳が似ている」
と頭を抱えると、
「男が全員巨乳好きと思ったら大間違いですぞ!」
ササヤン、声が大きい。
「俺たちサフラン派だから、あ、言っちゃった」
オギちゃんって同士とつるむとはっちゃけた感じなんだ、今まで気がつかなかった。
「村瀬さん、怖がらないでください」
服部、まだ言っている。
なんでも、シナモン、バジル、ローズマリー、クローブ、サフランで派閥があり戦争が起きるらしい。俺たちは少数精鋭だと息巻いている。やっぱり少数派なのね。
その間もレンコンこと本郷はずっと私を見ていて、とうとうノートを取り出し何か書き出した。その傍らではササヤンとオギちゃんの話が止まらない。
「村瀬さんにも是非見て欲しい。実は2期の裏テーマが ”洗脳” じゃないかって考察されていて」
なんのことやら。
「じゃあ、そろそろ行きます、先輩に知られると面倒なので」
と、席を立とうとする。すると服部が急に険しい顔で、
「村瀬さん、百川になにか弱みでも握られていて、無理矢理つきあわされているんじゃないですか?」
みんな、また始まったという呆れ顔で服部を見る。
「そんなことはないです。先輩に言わせると私の方からアプローチしたみたいです」
私が笑いながら答えると、みんなは「ええー!」と大袈裟にのけぞった。
そのとき本郷が初めて口を開いた。
「百川はサフランガチオタだよ」