第37話 10月 グリちゃん危機一髪②~構成員レポ~
文字数 1,427文字
「俺の信者達。頼んでいないのに勝手に色々レポートしてくる
私はそれを聞いたとき、めまいを覚えた。
私と諒君、みんなにネタを提供していたの?
「構成員達の素性は明かせないけど、引き籠もりや廃人でさ、サフラン先生とグリ君シリーズの創作の手伝いという名目で、外に出られたり行動できるらしいのよ。ちょっとした社会貢献? フフッ」
「主に百川を追っていたみたいっすよ。村瀬さんには服部がウロウロしていて鬱陶しいし、夏休みは本当に食堂とバイトとスーパーの往復だけで修行僧かって構成員Bの報告ウケたっす」
「構成員B、ネタを見つけたいあまり天神アカデミーで短期バイトしていたんですぞ、気がつきましたかな?」
ササヤン、いつもの口調に戻った。……え? バイトと言えば福祉医療学部の医療マネジメント科の女の子がいたけど……
「嘘でしょ、飯田さん? 気遣いのできる常識人で、本郷さんのマンガとは無縁なタイプですよ。辞めてから塾長、飯田ロスになってしまって」
そういえば休憩中によく話かけられたな……
「村瀬さんって休みの日はなにしているの?」とか。
それって一番困る質問。その頃はスマホでマンガばっかり読んでいたし。
それから、
「村瀬さんはつきあっている人いるの?」
「私はつきあっていると思っていたけど、妄想だったのかもしれないという悲しい事案がありまして」
「村瀬さん、詳しく」
「勘弁してください。それより飯田さんは彼氏いますか?」
「わたしのことなんてどうでもいいから」
「あ、塾長が呼んでいるので」
そんなような会話をしたのを憶えている。
「誰かは言えないけど、キャラ設定すればそれに沿って動けるんだよ。その方が楽なんだって。誰かは言えないけど、ネトゲ廃人で自分が空っぽだから」
「構成員B、あまりに暇で#創作多かったですな。なぜか百合展開の」
「そうそう、村瀬ちゃんとボーイッシュな中学生女子のね」
中学生女子? 開ちゃん? 本当に妄想力の高い人達……
私は冷めた紅茶を飲み干し、
「とにかく、飲みに行っただけだし、ホテルの前で拒絶したし、未遂だってことはわかりました。少しモヤッとはするけど、よかったことにします」
「村瀬さん、モヤッとするなら我慢しない方が。百川のこと少し怒ってやった方がすっきりしますぞ、お互いのために」
「もっと堂々と萌奈の前で百川とイチャイチャしてみたら? ケンカを売られたようなもんすからね」
「それいいなオギちゃん! 村瀬ちゃん、みんなの前でヤって見せちゃえ」
本郷はなにかひらめいたのかノートに書き出した。
「本郷さんはいつもそんなことばっかり!」
と抗議してみんなで笑ったら、服部が恐ろしく低いテンションで、
「みなさん、あんまり村瀬さんに下ネタは振らないでください。村瀬さんもそういう話に乗らないでよ、女の子なんだから」
すると本郷がバカにした顔で、
「おまえ、なに言ってんの。もしかして村瀬ちゃんが処女だとでも思っている?」
「は? ……いや、違うんですか? 」
「服部、もしかして百川と村瀬さんがプラトニックとでも思っているの? あの百川だぜ、そんなわけねえだろ」
オギちゃんが笑うと、服部は憮然とした顔で勢いよく席を立ちカフェを出て行った。
みんなで呆気にとられて無言で服部の背中を見送ったあと、ササヤンが真顔で一言。
「あいつ、ブロックだな」