サムウェア (8)
文字数 1,342文字
(これが、この国の姿なのか?)
(真の?)
天空から見下ろした列島は、そのまま――
龍の形だった。
いやいやそんなことは想定内だと。タツノオトシゴだと、そんなの誰でも知っていると。読者はそう言いたいだろう。
違うのだ。
龍の四肢が、尾が、頭が、それぞれ小さな龍でできている。
その小龍の四肢が、さらには鱗の一枚一枚がそれぞれ龍の形を――
「フラクタルだ」
「えっ」
「フラクタル。シェルピンスキーのギャスケットを知らないか」
フラクタルとは、図形において、部分に全体の相似となる縮小形をふくむものを指す。シェルピンスキーのギャスケットはその一例で、正三角形の反復・再帰形。
と説明されればされるほどわからなくなるところが数学は凄い。
こういうやつ。
この三角のひとつひとつが龍だと思ってほしい。
ズーム動画。
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/6a/Sierpinski_zoom.gif
これずっと見てると酔うから気をつけてほしい。それとも私だけか?
「龍は何頭いる?」
「あ……」(数えられない!)
「少なくとも一頭ではない。わかるな」
大公の声にあるのは、先刻までの
「天下統一、などというとき、われわれは何かを見誤っているのだよ。
あたかも一頭の龍を相手にしているような錯覚におちいっている。そのばらばらな部分をつなぎあわせ、健やかな全体にしてやるのだ、というような。
思い上がりだ」
「われわれは島ではない。列島だ。
無数の龍から成る。
きみは全体の一部分ではない。
きみ自身が、独立した一個の龍だ。わかるか」
わっかんねーし!!!!!
と泣きそうなクロードだが、「あそ」と見放されて落とされたら百パー死ぬ高さなので、とほうにくれている。
ちなみに、大公の手がかぎ爪になっていてつかまれているとかではない。いつのまにか何か知らん座布団サイズの白い板を渡されて、それにしがみついてるんだけど、これって小学校のプールで使わされた
(ビート板)
てやつじゃないかと思ったらめっちゃ屈辱的な気がしてきた。どうして飛行石にしてくれないのだ。
でもとりあえずこれにつかまってバタ足してないと落ちる。
大公ご自身は優雅に宙に浮いている。上半身裸で和彫りなのにエレガントってなんでだよ。
「頂点などというものは存在しないのだよ、義経くん。
あれを見ればわかるだろう。
ながめる方向によって、底辺も頂点も入れ替わる」
「はい」
「だが、
交点
は確実に存在する。ときに、ある一点が輝くことさえある。あたかもそこからすべての波が発しているかのように。
それも一瞬だ。つぎの瞬間そのビジョンは崩れ、新たな波がまったく別方向から寄せてくる。
そのくりかえしなのだよ。
わかるか」
「わ……かりませんっ(泣)」
だが、何かものすごく大事な話だということはわかる。
「ははは、ごめん。八年間もステイホームだったから時間がありすぎて、つい深掘りしちゃってね。
おっとと、気をつけて。
そのビート板、大事にしてね。ゆうべお姉さんたちがかわるがわるお胸に乗せてこすっておいてくれたやつだから」
「まじで?」
「まじで」