オーバー・ザ・レインボー (4)
文字数 654文字
スマホをタップした白い指。優しい笑みの浮かぶ口もと。
「ふふ」
「どうなさいました?」
「これ見て」
「まあ」
彼女を囲んで、同じく優しい尼姿の女たちが数人。
「マーーミイーーーー!!」
動画のなかから、子どもの叫ぶ声がする。
「はいはい」
「マミイ! いまね、げんじのおにいちゃんがおうまさんなの!」
「よかったわねえ」
「さっき、けんけんぱ、して、ちんが勝ったから!」
「あらあら」
若い母親はくすくす笑っている。優雅に指を唇によせて。
箸より重いものを持ったことのなかった昔にくらべ、その手はいささか荒れてはいるが、
墨染の衣の下の肌は変わらずみずみずしい。
「マミイはなにしてるの?」
「マミイはね、お花をつんでますよ。みんなのために」
「マミイ、いつもありがとう」
「どういたしまして。あとで飾ったらまた写メ撮って送るわね」
「はーい」
「あんまり予州どのを困らせちゃだめよ……あら、もう行っちゃった」
建礼門院徳子はスマホから顔を上げ、いたずらっぽく微笑んだ。
花びらのような舌先が、すぼめた口からちらりとのぞく。
「ま、ちょっとくらい、困らせてさしあげてもいいかもね」
「そうですよ」
侍女たちが口々に賛同する。
ここは大原。
透きとおる青空をふりあおぎ、美尼はかるく目を閉じて深呼吸した。
(風……)
徳子という名は、正式には「とくし」または「のりこ」と読むようだが、もう「とくこ」と読むのが慣例になっている。この物語でも「とくこ」で行こうと思う。
平清盛の娘、知盛の妹。安徳帝の母。かつての