オーバー・オーバー・ザ・レインボー (3)
文字数 1,211文字
乾杯、とウィンストン卿がかるくグラスを上げ、エイドリアン僧正が応じる。
乾杯のときにグラスをチン、と合わせるのがマナー違反かどうかという話だが——
そもそもいま二人がいる部屋は、本来なら二十人は入れる貸し切り用の個室だ。テーブルもそれ相応に大きい。なのでグラスをチンしようと思ったら、立ち上がって思いっきり相手のほうへ前傾しなければならない。ダサい。
ということで当然チンはなし。
淡い琥珀色をおびた美しい液体が、こわれそうに薄いグラスの中でゆらめくだけだ。
さて、なぜ頼朝に乾杯しているかというと。
このたびウィンストン卿が晴れて摂政に就任できたのは。
ぶっちゃけ、頼朝のおかげだからなんである。
この話をすると長くなるが、面白いのでする。
頼朝は挙兵後わりと早い時期から朝廷にコンタクトをとりはじめる。でもその頃から朝廷も大混乱だから、ようするに
電話かけるたびに違う相手が出て、またゼロから説明しなくちゃならない
的なことがくりかえされる。うん、会社あるあるだ。
困った頼朝は、戦乱も落ちついた後のある日、ついにおずおずと提案した。
「あの、わたしごときがこんなことを申すのは、差し出がましいのですが……、担当のかたを決めていただくと、ひじょうに助かります。
例えば、右大臣どのとか」
頼朝、ピンポイントで兼実さまを指名。
その最大の理由は、
例の〈朝廷が義経のおねだりに負けて頼朝の討伐令出しちゃった事件〉のとき、兼実さま一人が果敢に反対したからだ。かっこいい!
「頼朝くんが討伐されるようなことを何かしましたか?」
浮き足だった同僚たちは聞いちゃいない。結果、直後にクーリングオフ、手のひら返しで頼朝に義経の討伐令を出すという醜態を演じた。いちばん声高に兼実さまをどなりつけた政敵が、まっさきに頼朝のご機嫌とりに走ったそうだ。
あるある!
兼実さまの苦りきった顔が目に浮かぶようだ。
こうして頼朝の信頼を勝ち得た兼実さま。
しかし、話はここでは終わらない。
頼朝が兼実さまを推薦したとき、
「右大臣どのにぜひ、摂政になっていただきたく!」
と思いきって言えていたら──
その後の大混乱はまるっと回避できたのだ。
そうはいかなかった。
武家が、朝廷の人事に口出すなどあり得ない。しかも最近まで反乱軍だった自分たちだ。謙虚な頼朝には「いまの摂政どのを辞めさせて代わりに右大臣どのを」なんて、とてもじゃないけど言いだせなかった。ぎりぎりで
「右大臣どのに、〈
と、そーっと言ってみた。
内覧というのは、天皇にお見せする案件にあらかじめすべて目を通すという役職。
おわかりかと思うが、実務として、ほぼ国を牛耳ったも同然のポジションだ。
ところがこれは、あくまで「実務として」なんである。
肩書としては、摂政とどっちが偉いか、という点が問題になってくる。