オーバー・ザ・レインボー (5)
文字数 989文字
夏、とある。
うーん。
どうしよ。
原作に「夏」ってはっきり書かれちゃってるんですよ。『平家物語』に。
青葉。夏草。
浮き草が池の波にゆらゆら揺れて、まるで錦を水にさらしているかのよう。
松にかかる藤の花。咲き乱れる山吹──
ん、ちょっと待って。藤や山吹は春の花じゃないの?
と思ったら、なんと平安時代の「夏」って四月からなんですね!!
一月から三月までが「春」。だから年賀状に「迎春」って書くんだもんね。
ややこしいー。
よし。じゃあ晩春から初夏ということで行きましょう。ね。春的な夏、ということで。
あ、だめ! 巻三から読み返したりしちゃだめです。そういえばアリアちゃんがお月見してたなとかクロードくんがウィリアムさんにジャケットを借りてたなとか大公がコート着てたなとか思い出しちゃだめなの。あれはね、書いてた季節に合わせてお話の時間もじんわり秋へ進めてたんだけどいろいろあって(ほんといろいろ)、
ぴえん!
ともあれ。
花籠に春的な夏、夏的な春の野花を摘んで、マーガレット徳子はそろそろと坂を降りてくる。
「お足もと、お気をつけて」
数歩先に、もう一人の尼。ふりかえって手をさしのべる。
「ありがとう。きゃっ」
「ああっ」
「ああびっくりした。支えてくれて助かったわ、ありがとう」
「危のうございました」
「あはは、わたしったら」
「もう、女院さま」
笑いあう。
坂の下、庵室の前。
ふだんなら静かなその場所に、
十数人もの男たちがたたずんで、茫然とこちらを見上げている。
「ええっ」
マーガレットは大きな目をさらに大きく見はった。
「お義父さま?!」
「やだ、いまのご覧になった? わたしがすべったの。
徳大寺、花山院、土御門。あなたたちも?(※お供の公卿たちの名前)
わあはずかしい!
ちょっとお待ちになって、この泥んこ拭いてしまうから。だれか濡れ手ぬぐいを持ってきてくれる? ああ、いいわ、わたしが自分でします」
そまつな黒い衣、白の尼頭巾。
姿かたちはこれほど変わっていても、
(変わらない)
かつて綾錦に身を包んでいた頃と。そう、いま花籠に入っている花々のような、黄、淡紫、白、そして朱──
彼女のまわりには、つねに光の輪が広がる。青葉をさざめかす風の中でそれを見とどけて、
(昔と──お変わりない)
男たちの目にも優しい笑みと、涙が浮かぶ。
若き