サムウェア (12)

文字数 1,728文字

 ということで、エピソード「義経ミーツ崇徳院」、またの名を

「パーティー(朝廷)から追放されたので、大魔王になって辺境(四国)でまったりスローライフします ~女勇者(ヴァルキューレ)ハーレム付き~」

 ――の巻は終わりなのだが、
(四国の皆さま辺境なんて言ってごめんなさい! 私もルーツの半分は四国なので自虐ギャグです!)

 この「サムウェア」の章が完結したわけではない。
 未解決案件がまだある。まだまだある。なんなら資源回収の日にひもでくくって出せるくらい山積みだ。
 とりあえずいまは、

 嬉しすぎて加速が止まらない白狐をなんとかせねばならない。

「フロ危ないっ」巨蝶の背のボックス席からミランダが叫ぶ。
「まずい」御者台のパトリシアも焦っている。

 チキ1号のゆるやかな飛翔にしびれを切らして、「おれちょっと行ってくる」とフロリアンが単独で飛び出してしまったのだ。
「ごめんパトちゃん、止められなかった」
「いいよ無理だよあれは、一瞬だったもんね。それよりいまどうするか考えよ」
「うん」

 もう少し時間を巻き戻して説明しよう。
 牛窓から小豆島を経てぶじ香川県入りしたミランダ・フロリアン・パトリシア・ヴァレンティンの一行が、じゅぶじゅぶな浜辺に立って息を切らしているベンジャミンを発見したのが半時間前。
 聞けば、平家専用メトロのエスカレーターを駆け上がってきたところだという。
 ベンジャミンの指さすはるか上空に、出勤途中の大公ご一行様プラス、クロード@ビート板が浮かんでいた。

「おれが、ちょっと、目を離したすきに」はあはあとあえぎつつ頭を下げるベンジャミンだ。「また皆さまにご迷惑をおかけして、うちの御曹司がっ」
「わたしにも責任が」こちらもあわてて駆けつけてきた(てい)の忠度卿ウィリアム。同じく息をはずませている。「同行すればよかった」
「せっかくひさしぶりにぐっすり眠れたのにー」ベンジャミン、男泣きに泣いている。「平家の皆さんに御曹司のお守りおまかせしてー」
御手(おて)をお上げください」とウィリアム。「こちらの不行き届きです。申し訳ない」
「うああ」
「泣かないで」

「わたしも想定外だったんです」ウィリアムの額にも冷や汗がにじんでいる。「まさか、かの君が、脱ぐとは」
「えっ」
「いや、お脱ぎになるとは」
「敬語にしても意味ないしっ」
「だからその、ああなってこうなってクロードくんが天空へ、ら――(せきばらい)」
「いま『拉致られた』って言いかけましたよね! やっぱあれは拉致ですか?!」
「(ごほごほ)」

「よほど気に入られたってことだね」ヴァレンティンがぽつりと言う。「神に」
「気に入られるとどうなるんですか?」とベンジャミン。

「……」

「みんな黙んないでよ! え何?!」

「義経くんも、いっしょに金刀比羅宮に祀られちゃうんじゃないかと……」

「不吉なこと言わないでヴァレ兄!」ミランダが叫ぶ。
「不吉ではないよ。むしろめでたいというか」
「そうじゃなくて、御曹司が神になっちゃったらこの小説ここで終わっちゃうじゃない」
 皆の背中を、サアアと冷たい風が吹き抜けた瞬間であった。

「誰が迎えに行く?」
 ヴァレンティンが言い終わらないうちに、
「ミラ」
 皆がふりかえると、チキ1号の背にすでにフロリアンが乗りこみ、隣の席をぽんぽんと叩いていた。
「ここ。ミラ」
「え、あたし行くの? なんで」
「おれが行くから」
「は?」

 チキ1号の乗車定員は4名だ。御者入れて5名。あと2名は乗れる。
「行くなら武蔵さんだよね、当然?」
 顔面蒼白でフリーズしているベンジャミンを見て、全員が当惑する。

 自分の重量が心配なわけではない。さすがの彼も二人分を超えるほどヘビー級ではない。そうではなくて――
 いま、ここにいるメンツの中では、フロリアンと、作者と読者だけが知っている。
 忘れちゃったかたは第五章その15「もっとロンリーハート (11)」のページを大急ぎでチェックしといてください。
 そう、ベンちゃん、高いとこはだめなの。誰にだって弱点はあるのだ。

 ということで、パトリシア(御者)とフロリアンとミランダを搭載したチキ1号が浜辺を飛びたったわけなのだが、
 そこからのフロの単独行動は、これまた本人以外の全員には想定外だったのだ。
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登場人物紹介

静/アリア(しずか/ありあ)

この物語のヒロイン。しばらく出てきてないけどヒロインの位置は不動。
明るく素直で天然。特技は歌とダンスと水泳、ばかりでなく、雨を降らせる特殊能力を持っているが、本人はその重大性に気づいていないらしい。惚れっぽく、美しい者には見境なくフォーリンラブしてしまう。ために現在いろいろとややこしいことになっている。海霊族(ネレイド)。

源九郎義経/クロード(みなもとのくろうよしつね/くろーど)

アリアの恋人。天性の人たらし。アリアを熱愛する一方で(このところ忘れてるように見えるがぜんぜんそんなことはない)、実姉のカミーユ(頼朝)とぬきさしならない愛憎関係にある。目下の課題はカミーユが配置した包囲網を突破してとにかく生きのびること。樹霊族(ドリュアード)。

崇徳院/マクシミリアン(すとくいん/まくしみりあん)

かつての上皇でいまは神。崇徳は諡(おくりな=没後に贈られる称号)で、諱(いみな=本名)は顕仁(あきひと)。内乱で実弟の後白河帝に敗れ、大怨霊になったとして恐れられているが、素顔はいたって穏やかでシャイ。三人の美官女たちとまったりスローライフを満喫中。龍族(ドラゴン)。

佐藤三郎嗣信/フロリアン(さとうさぶろうつぐのぶ/ふろりあん)

義経四天王の一人。弟の四郎クリストフとともにクロードを主君と仰ぐ。誠実で俊敏だがたまにフライング(先走り)する傾向あり。左肩から右脇腹にかけて貫通創あり。アリアの姉ミランダと熱愛中。火狐(ファイアーフォックス)。

遥/ミランダ(はるか/みらんだ)

アリアの姉。妹思いでクールかつ熱血。特技はアリアと同じく歌とダンスと水泳。アリアとよく似た容貌だが、5センチ背が高い。アリアの行く末を心配し、クロードと引き離したいと願っている。ためにクロードとは犬猿の仲。海霊族(ネレイド)。

巴/パトリシア(ともえ/ぱとりしあ)

ミランダの友人。一人当千の女武者(アスリート)で尽くし好き。恋人の木曽義仲を失い、彼の菩提を弔って生きていたが、正直たいくつしていたところだったため、ミランダとアリアの救出に喜んで参戦する。素はおちゃめ。土霊族(ノーム)。

武蔵坊弁慶/ベンジャミン(むさしぼうべんけい/べんじゃみん)

クロードの右腕。アリア・ミランダの姉妹とも友人。筋骨たくましい大男だが、冷徹な知性派でもあり、クロードの暴走をつねに(かろうじて)食い止めている。こう見えて料理男子。人馬族(ケンタウロス)。

平知盛/ヴァレンティン(たいらのとももり/ばれんてぃん)

平家ファミリーの若きリーダー。肩書は新中納言。クロードとは因縁の仲ながら、互いに親近感を抱いているらしい。現在はフリーのようだが、恋人募集もしていないらしい。パトリシアとはバディとして気が合うらしい。いまだにいろいろ謎な人(作者にとっても)。樹霊族(ドリュアード)。

平忠度/ウィリアム(たいらのただのり/うぃりあむ)


平家ファミリーの主要メンバー。清盛の異母弟(末弟)で、知盛には叔父にあたるが、歳はそれほど違わない。肩書は薩摩守(さつまのかみ)。文武両道で和歌にも武芸にも優れ、しかも性格温厚でひかえめ。樹霊族(ドリュアード)。

平教経/ハロルド(たいらののりつね/はろるど)


ヴァレンティンの従弟。肩書は能登守(のとのかみ)。平家ファミリー最強の戦士。ことに強弓は他の追随を許さない。素は気さくな好青年で、甥のアーサーを溺愛する叔父バカ。樹霊族(ドリュアード)。

安徳帝/アーサー(あんとくてい/あーさー)

先帝。六歳(数え年で八歳)。平家ファミリーの秘蔵っ子。安徳は諡(おくりな)で、諱(いみな)は言仁(ときひと)。本人は「天のうをやめれた」ことを喜んでいる。巻三でクロードにプロポーズした。樹霊族と龍族両方の血を引く「ダブル」。

建礼門院徳子/マーガレット(けんれいもんいんとくこ/まーがれっと)

平家ファミリー秘蔵の姫。清盛の娘、知盛の妹。安徳帝の母。
平家ファミリー主要キャラのうちほぼ唯一の生き残り。運命に翻弄された悲劇のヒロイン……にしては笑い上戸の陽キャ。いまは京都郊外の大原で一門の菩提を弔いつつ、趣味の園芸を絶賛エンジョイ中。樹霊族(ドリュアード)。

後白河雅仁/ローレンス(ごしらかわまさひと/ろーれんす)


法皇。この国の最高権力者の地位にありながら、つねに周囲の予想のななめ上を行くキッチュな異端児。今様(Jポップ)と絵巻物(マンガ)をこよなく愛し、膨大なコレクションを持つ。愛妻ジェニファー(滋子)の没後もいちずに彼女を想いつづける純愛の人でもある。龍族(ドラゴン)。

九条兼実/ウィンストン(くじょうかねざね/うぃんすとん)

名門・藤原摂関家のCEO(最高経営責任者)。苦節二十年(と言ってもその間ずっと右大臣)、晴れて摂政に就任する。頼朝の盟友である一方で義経にも深い共感を寄せ、後白河院には振り回されるという忙しい人。座右の銘は「まずいワインを飲んでいられるほど、人生は長くない」(ヴォルフガング・フォン・ゲーテ)。山霊族(オレアード)。

慈円/エイドリアン(じえん/えいどりあん)

ウィンストンの弟。天台宗の高僧。のちに座主(寺院のトップ)を四度勤める。当代きっての歌人でもあり、六千首にもおよぶ和歌を残している。政治家の兄を宗教界からバックアップする影の実力者でありながら、頼朝と遊び歌でふざけあう無邪気な一面も持つ。山霊族(オレアード)。

源由良頼朝/カミーユ(みなもとのゆらよりとも/かみーゆ)


鎌倉殿。そろそろ征夷大将軍になるところ。最愛の弟クロードを断腸の思いで追討。そのわりにその後あんまり苦悩してなさそうなのは、たんに作者が書くのを忘れているからだ。最近エイドリアンという新しいメル友ができた。樹霊族(ドリュアード)。

佐藤四郎忠信/クリストフ(さとうしろうただのぶ/くりすとふ)


義経四天王の一人。兄の三郎フロリアンとともにクロードを主君と仰ぐ。内気で目立つのが苦手。「天性極信」(てんせいごくしん)、つまり「めちゃくちゃいいやつ」と広辞苑第五版にも書かれている(「極信」で引いてみてください)。ヒロインのアリアと両片思い中。水狐(ウォーターフォックス)。

畠山次郎重忠/ロバート(はたけやまじろうしげただ/ろばーと)

鎌倉幕府の重要御家人の一人。清廉潔白な人柄でカミーユの信頼厚く、「坂東武士の鑑(かがみ)」と称される。クロードとカミーユの不和に心を痛め、ひそかにクロードの逃亡に尽力している。見た目しゅっとしているのに力持ち。音楽の才能もあるらしい(そのうち出てくる予定)。人馬族(ケンタウロス)。

阿野全成/アントワーヌ(あのぜんじょう/あんとわーぬ)

醍醐寺(真言宗)の荒法師。クロードの同母兄、カミーユの異母兄※。悪禅師(あくぜんじ)の異名を取るわりにはクロードの何分の一も暴れておらず、そんな自分の生き方(というかキャラ設定)に疑問を抱く毎日。樹霊族(ドリュアード)。
※史実では頼朝より年下ですが、このお話ではお兄さんに設定してあります。

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