渚の二人 つづき
文字数 1,606文字
義経「何もかもって?」
院「平治の乱とか」
平治の乱は、源平合戦の少し前の内乱。
貴族のクーデターに、義経の父・源義朝が動員される。
けっきょくクーデターは失敗し、義朝は敗死。収拾に活躍した平清盛の一人勝ち時代が始まる。
院「わたしが祟って、義朝くんをとり殺したと言われてるそうだけど。
そんなことしてないからね?(涙)
それをきみに聞いてほしかったんだ」
義「(あわあわ)わかってますって」
院「でね、その後、清盛くんにわたしがとり憑いて、彼の頭をぱあにして、平家がおごりたかぶったって話になってて」
義「えー」
院「清盛くんが死んだのもわたしの祟りで」
義「えええ」
院「知盛くんたちが壇ノ浦で全員死んだのも全部わたしの祟りで(涙)」
義「それじゃ清盛さん以下おれら全員、主体性ゼロですよね?(怒)」
院「でしょう?」
院「もうQアノン※かわたしか、というレベル(涙)」
※世界規模の極悪の秘密結社――らしいが、実在はいまだに確認されていない。
ドナルド・トランプはそれと闘う英雄であるそうな。
義「誰がそんなこと言ったんですか? いやQアノンじゃなく『すべて院の祟り』説」
院「『保元物語』にも書かれているけど」 ※作者・成立時期ともに不詳。
院「有名なのは上田秋成くんの『雨月物語』」 ※江戸時代後期、1776年刊。
義「あーなんか聞いたことある……怪談集ですよね?」
院「そう」
九編の怪奇譚から成る『雨月物語』、第一話「白峯」が崇徳院のおはなし。
西行法師が崇徳院のお墓参りに来て、院の亡霊と対話する。
というか問答する。
というか西行が一方的に崇徳院を叱りつけて帰る。
はっきり言って、九話のうちワーストに面白くない。(個人の感想です)
院「西行くんがお参りに来てくれたのは本当。あれは嬉しかった」
義「あの人はたしか……若い頃、清盛さんやうちのおとん(義朝)と同僚で」
院「そうそう」
北面の武士といって御所の警護にあたる、まあガードマン職だった。
院「来てくれたのは嬉しかったんだけど、彼、ほんと人の話聞かない人で。
ひとりで泣いて、
『いけません祟るなんてみっともない、恥を知りなさい』
みたいなお説教をさんざんして帰っていっちゃった」
義「何様(怒)」
義「西行さんってあの人ですよね?
おれらが? 明日どこで死ぬかもしれない戦をずーっと戦ってるときに?
一人で名所めぐりして
『桜の咲く下で死にたいの、春の満月の夜に。はあと』※
みたいな意識高いこと言っちゃってた?」
院「トゲがあるね……(汗)」
義「こんぐらい言わせてください(ぷんぷん)」
※「願はくは花のもとにて春死なん そのきさらぎの望月のころ」西行法師
院「まあ、その西行くんにね、わたしが。
『知らないの? 最近世の中が乱れてるのはみんなわたしのせいだよ。そのうち天下に大騒乱を起こしてあげるからね、カッコ笑い』って言ったことになってるけど」
義「うわ」
院「言ってないから」
義「わかってますって」
――新院
(『雨月物語』「白峯」より。「新院」は崇徳院のこと)
院「自分が政権をとれなかったから『みんな滅びてしまえ』って……
そんなこと言う人にされてるなんてはずかしすぎる(涙)」
義(じわ……)←もらい泣き
院「きみは怨霊伝説なくていいね。いつまでも人気者で」
義「あー」
院「何?」
義「ほんとだ。おれどうして怨霊にならないんだろう」
院「いま気がついたの?」
義「はい」
義「恨んでいいはずですよねおれ? 鎌倉殿とか鎌倉殿とか、鎌倉殿とか」
院「やめなさい」
院「もじゃもじゃペーターの絵描かれるよ(笑)」
義「ですよね。やめときます(笑)」
院「口直しに甘いものどう?」
義「え、何ですか」
院「和三盆。讃岐名物」
義「わーい!!(嬉)」