渚の二人
文字数 1,508文字
義経「……(泣)」
院「やめて、五体投地やめて。頼む」
院「クロードくんでいい?」
義「はいもちろん。えーと……?」
院「ああ、わたしは、マクシミリアンなので」
義(かっけー)
院「(ほがらかに)マックスと呼んでくれないかな」
義「無理っす!!(泣)」
院「わたしだってすぐわかった?」
義「え、はい」(なんでそんなこと訊く?)
院「よかった。怨霊スタイルで来るべきか迷ったのだけど、やっぱりあれははずかしくて」
義「そんな気をつかっていただかなくていいですから!!(泣)」
院「これね」
(歌川国芳画)
院「笑笑」
義(ご自分で笑ってるし!)
院「怖いというより、バカっぽいよね。顔が(笑)」
義(そのとおりだって言いづらい!!)
院「これなんかもっとひどい。見て」
(歌川芳艶画)
院&義「笑笑笑」
義「いやこれはないですわ(笑)」
院「あと爪がのびてるのはこれ」
義「これ『もじゃもじゃペーター』ですよね??」 ※ドイツの童話
院「笑笑」
義(おちゃめ?!)
義「なんでそんな怨霊伝説ができたんですかね?」
院「うーん」
院「わたし=怨霊説ね。わたしが死んでから十三年後にきゅうに出てくるんだ」
義「え」
院「その年に、たてつづけに人が死んで……
と言うんだけど、みんなちょっと冷静に考えてほしいんだな。(ため息)
人は、毎年死ぬよね」
義「たしかに」
院「『たてつづけに』と思うからそう見える。一年に何人か亡くなるのは普通でしょう」
義「ですね」
院「その年、とても重要な人が亡くなったんだ。病を得られたと思ったら、あっというまに亡くなってしまった。それでみんな、というか一部の人々がパニックに陥った。
誰だと思う?」
義「わかりません……」
院「建春門院さん」
義「?」(聞きおぼえある……誰だった?)
院「
義「!」
義「しいちゃん?」
院「そう」
最愛の后、建春門院の急死。
後白河院はショックに打ちのめされる。
有馬温泉にラブラブ旅行した直後だったからなおさらだ。
(どうして?)
(どうして、しいちゃんが、わたしを置いて)
理不尽な、受け入れがたい事実に直面したとき。
人は、なんとかして納得できる理由を探してしまう。
かなりの確率で――
自分を責める。
(わたしのせいだ)
(これはわたしへの罰だ)
(わたしが)
(兄上を、見殺しにしたから)
何がどう見殺しだったんだよ、という話は次ページ以降でする。お待ちあれ。
で、十三年ものあいだ、「讃岐に流されたから讃岐院」という雑な扱いでほったらかされていた故院に、きゅうに
「崇徳院」
というスーパースペシャルな名前を贈り、りっぱな御陵(お墓)を建てたり何だりと、朝廷が大騒ぎしはじめたのはそれからなんである。
義「そうだったんですか!」
院「(ため息)かりにわたしが四の宮(=後白河院)に恨みを抱いていたとしても、十何年もたってから奥さんとり殺しに行かない」
義「ですよね」
院「(ため息)しかもね。それに便乗して、他のいろんなごたごたも、あれもこれもみんなわたしの
義「ひど!」
院「『すとく』はスーパースペシャルな名だというけれど、字面からして怖いよね」
義「あー……」
院「『すとく』の『す(崇)』、『とうとい』って読むけど。
『たたる(祟)』って字にそっくり(ため息)」
義「たしかに!」
院「上の『山』がいっこ多いの、『たたる』は」
義「どんな『他のいろんなごたごた』が上乗せされちゃったんですか?」
院「うん、その話をしたかったんだけど、このページけっこう長くなってきたから次に行っていいかな」
義「はい」
院「コーヒーもう一杯飲む?」
義「いただきます」