オーバー・ザ・レインボー (2)
文字数 777文字
小さなお顔は、静かだ。
先刻の激怒の余波でほのかな赤みが残ってはいる。だが、お目は澄んで、涙もない。
まわりの大人たちのあいだが波打った。前へ出て帝をお止めしようとする者、それを制する者。
けっきょく誰も動けない。
「
しばし、うつむかれる。やがてお顔を上げ、静かにお言葉をつがれた。
「朕にとっては、母上からいただいた、大事の品であったゆえに。
なれど、もうよい。
予州が持てゆくがよい」
「皆もさわぐな」
可愛らしい声で、大人たちを一喝した。
「朕が決めたことじゃ」
「いかがした、予州。気に入らぬのか。なぜ泣く」
「も……ったいのう、ございます」
そうしぼり出すのが、やっとだ。
「ほしかったのではないのか」不思議そうに目をみはっておられる。「喜ぶと思うておったのに。
本物であるぞ。いまは小さくなってるけど、《れぷりか》ではない。
《れぷりか》で合っておるよな、新中納言」
「は」
ヴァレンティンもうなだれている。
「朕にはわからぬ。なにゆえそちたちは、かほどにこれをほしがるのか。
大人なのに。
朕は子どもなれど、皆の思うておるほど、ばかではないぞ。
まほうの剣だと申すが、ふっても何も出ぬし、変身もできぬ。あたりまえじゃ。されど、母上がくだされたゆえ、朕には本物のまほうの剣なのじゃ。
かようなおもちゃでよければ、持てゆくがよい」
みずから歩み寄って、お手渡ししようとなされる。
「なにゆえ……、これを、わたくしに?」
かすれ声で尋ねると、花の咲くように微笑まれた。
「好きだから」
「のう予州。ならばひとつ、朕からも尋ねたい。
そちは存じてはおらぬか」
「母上は――」
ふとお声がふるえ、お目がうるむ。
「母上は、なにゆえ、朕とともにおいでくださらなかったのであろうの?
朕が、いかなる