サムウェア (11)
文字数 1,346文字
先刻から必死の形相でくちびるを噛んでいた三人美官女たちの一人が、たまりかねたように声を上げた。
「あ、あたしもうダメ。限界。
いただきますっ!」
同時に響きわたる──
連写の音。
乱射じゃない、連写。誤変換じゃないの。いま機械に提案されたけど作者の私が合ってる。
スマホの写メ連写のカシャカシャカシャカシャだ。
「ああっ伊勢さまずるいっ」
悲鳴があがる。両手いっぱいにみんなの着替えを抱えさせられている一人だ。
「大丈夫あとで
「何ですか二人とも、はしたない」リーダー格の女はいちおう眉をひそめたが、
「見せて見せて」
「
「当然でしょ。うまく撮れた?」
「ばっちり。ほら」
「きゃああ」
「可っ愛いいいいいいいいっ!!」
ありがとうございましたー、と叫びながら落ちていってフロリアンの背中に無事キャッチされ、そこから手を振っているクロードのことだ。
「えー、ちょ何これアシタカじゃん! 山犬じゃなくて白狐なだけ」
「やー夏目くんでしょ、友人帳の」
「それな」
「白狐もふだん美形なんですよ。ケモ耳のときとかもう超かわええ死ぬ」
「まじ? なんであんた知ってんの周防」
「この連載最初から読んでますからっ(ハアハア)」
「やれやれ」
乱れ髪をワイルドになびかせながら微笑むマクシミリアン大公だ。
「きみたち、遅刻だよ」
「それ言いますか?!」
「大公こそずるいですよ」相模が果敢に反撃する。「『年増がデレたらみっともないから仕事モードで来るように』とか言いつつ」
「言ってない」と大公。
「そうゆう趣旨のことをひじょうに
「イチャイチャしてない」
「してた! してました、ずるいずるい。アッチアチでおむすび作ったのあたしたちなのに」
「『よしよし』しましたよね義経くんに」
「したよ」
「さわりましたよねっ! どっどんなでした彼の髪(ハアハア)」
「さらさら」
「きゃあああああ」
この一連の騒ぎは、九郎三郎の主従には聞こえていない。
二人はいま(形態的には一人と一匹)、下方の宙空で待機している巨蝶に、まっすぐ向かっている。
「次は朝のお散歩だけじゃなくて、もっと長時間確保してくださいよぅ」
「確保?」
「彼をっ」
「ああ。だって今回は……初対面で……こんなわたしでも気に入ってもらえるのか、心配だったから」
「なにそれ?!」三人の絶叫がハモる。「乙女キャラすぎ。大魔王のくせに!!」
「わかった、悪かった。じゃあ次は、泊まっていかない?って訊いてみる」
「ぜひぜひぜひぜひ」
「それまでは」またにっこり。「三人ともクールモード崩さないでね、いい? 彼が怖がったらかわいそうだから」
「怖がる? はあ? 平家まるっと滅ぼした子が?」
「きみたち平家より怖いから。ぜったい」
興奮さめやらずきゃあきゃあ騒ぎつつ、こんぴらさんの山頂めざして青空を泳いでいく肉食系ヴァルキューレたち。まあヴァルキューレに草食系はおらんだろうが。
その最後尾から、はるかに遠ざかった小さな白い彗星をふりかえりつつ、
「次、ね」
静かな微笑を送る大魔王だ。
「義経くん。次は、いつ会おうか。どこで。
それまで──」
「生きろ」