サムウェア (1)
文字数 1,094文字
人は彼を、そう呼ぶ。
なんとも残酷な名ではないか。
第七十五代天皇、
ちなみに、第八十一代
つまり、もっとも──
怨霊化する危険性大、と思われた帝たちに。
無垢の童子であった安徳帝を見れば明らかなように、この
「怨霊になりそうな人ランキング」
は、本人の生前の資質や性格とはまず関係がない。
単純に「ひどい目に遭わされた人ランキング」と言っていい。
ようするに、
死に追いやった側の後ろめたさ
の度合いということだ。安徳帝の場合、赤ちゃんのときにもう天皇にならされて、気がついたら海に沈められてたんだから、いまなら児童虐待および無理心中の被害者ということになろう。痛ましい。
では、崇徳院は、どんな酷い目に遭わされたのか。
というあたりを今年(2022年)の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』はあっさり完スルー。
「電信柱が高いのも郵便ポストが赤いのも、みんな平家が悪いのよ」
的な世界観デフォルトでスタートし、ウェイ系坂東武者たちがノリノリでぶっ殺しあう話をえんえんと続けている。
おそらくこのまま
「そして誰もいなくなった」(
というラストまで行くのだろう。
なので、彼らの正直どうでもいい内輪もめの話はあちらにおまかせして、
われわれはちょこっと、
そもそもどうして源平合戦が起こったか、その
平家専用メトロから地上に出たクロード義経。
(まぶしっ)
巻三の末から物語内ではなんと45秒しか経過していない。ちびまる子ちゃんが永遠の小学3年生であるのと同じく、アインシュタインの相対性理論にもとづく量子力学的トリックだ。
(怖えなー。院がおれをお待ちだって、どんな御用なんだろう)
忠度卿ウィリアムから借りたカーキのフィールドジャケットの襟をかきあわせる。
(しくじったら命がない……とか? あはは)
笑おうとしてみるが、洒落にならない。
柔らかな浜辺。
いちおうね、瀬戸内海だって波はあるんですよ。琵琶湖よりないといううわさではあるが。
かの君は――
ひとり、たたずんでいた。
砂色のステンカラーコートをお召しだ。袖をとおさずにはおって。
(かっけーっ)
ステンカラーは意外に着こなしが難しい。平凡もっさりになりがちだからだ。なのにふんわりと、しかも凛としたたたずまい。息を飲むような気品。
ふりかえった。
髪のまわりをとりまく、金粉のような微光。