サムウェア (14)
文字数 773文字
着陸態勢に入ろうとして、パトリシアは気づく。
(なんだか増えてる? 浜辺の人の数……)
増えている、どころではない。平家の皆さんがそろって押しかけてきている感じだ。
(盛大なお出迎え? あははっ。……に、しては)
皆こちらを見上げてはいるが、手を振る者はわずかしかいない。
空気が不穏だ。
「お二人とも」肩越しに声をかける。「下見て、下」
「わ、たくさん」ミランダも驚いている。
「あっ」小さく叫んだのはクロードだ。
「やばい」
「なに座席の下に隠れてんの? 意味ないから」
「ああああやばいやばすぎ」
「何」
「忘れてた」
「また? 今度は何」
「もう着きますよ」パトリシアの声にも緊張がある。「あとは降りてからにしてください」
「助けて! ミラちゃんっ」
「うわ気色わる。助けてって何、どうするの」
「服取り替えて」
「ばかなの?」
「おれ燃やされちゃうかもしれない!」
「じゃ取り替えたらあたしが燃やされるでしょ!」
「すぐ戻ってくる予定だったから」本気で半泣きのクロードだ。「約束破るつもりはなかったの、ほんとに」
「約束?」
「『おきたらあそんでね』って」
「???」
ミランダたち一行は知らない話だし、読者も大半はお忘れだったにちがいない。
あっ、と叫んだかた、ありがとうございます。作者冥利に尽きます。
粗品を進呈します。(何をどうやって)
逆鱗にふれる、と言う。
逆さの鱗。
龍のあごの下に生えているという。これにさわった人間は殺されるという。
天子の憤怒のおそろしさを示した言い伝えだ。
かりにその天子が、童子であっても。
おろおろととり巻く大人たちの中央に、無言で、身じろぎもせず、仁王立ちになっているちっちゃな姿がある。
怒りのあまり――
全身が輝いている。
逆立って舞いあがる髪のみならず、体全体から、火焔のごとき白光が放たれている。
安徳帝アーサーだ。