嫁の実家がおれより強い件

文字数 1,236文字

 ちょっと補足の説明。
 めんどくさかったらこの回飛ばしてくださっていいです。
 でもじつは、めぐりめぐって源平の対立の根っこにかかわる話なのだ。

 院政(いんせい)、というの、どこかでお聞きになったことありませんか。
 若い天皇を、父君の上皇が補佐するというシステム。源平のちょっと前から、その「院政」がトレンドになる。
 もちろん補佐は建前。じっさいの権力(パワー)は天皇ではなく、上皇にある。
 上皇が出家すると法皇と呼ばれる。ローマ法王とは違って宗教界のトップではなく、頭を剃った上皇というだけだ。上皇も法皇もまとめて「院」と称される。
 この「院」で実権を握っている人が「治天(ちてん)の君」だ。

 なんで天皇が実権を持たないんだ、おかしいじゃないか。
 そう言ってこの「院政」が異常事態みたいに決めつけられることが多い。じつは私も前はへんだなあと思っていた。
 だけど、そうじゃないらしいのだ。
 天皇はとっくに最強じゃなくなっていた。「摂政」「関白」というのがあるでしょう、天皇の補佐役。あのシステムを藤原氏が発明して、すでに四百年くらい政治を動かしてきていた。
 この「摂政」「関白」のポジション争奪戦において、帝のお妃の実家が有利だ。とくにお世継ぎ(皇太子)を生んだお妃のお父さんはもう天下とったも同然。
 嫁の実家がおれより強い。
「なにそれ」
と天皇家が思うのも当然で、四百年がまん(?)したあげく新機軸を出してきた。

「嫁の実家(藤原氏)よりおれの実家(天皇家)が強い」

 つまり――「おれ最強」になりたかったら、さっさと引退して「実家」のポジションをゲットし「義実家」を押さえるってことなのだ! 最速で息子を作って嫁を取る。なんなら息子はまだ小学生でも幼稚園児でもいい。形だけ結婚してくれればいい。
 これが院政だ。

 もうおわかりだろうが、かわいそうなのは小学生で即位し結婚させられる息子だ。
 鳥羽院はこれをやられている。(実家=白河院は父でなく祖父だが。)
 実家が死んでいなくなって、やっと自由になれた。次は自分が実家にくりあがる番だ。
 さて、どの息子を選ぶか――
 というところでまた一気に義実家たちが乱入。義実家にひっついたいろんな他人も乱入。
 うざい!
 と、鳥羽院でなくても叫びたくなる。

 この後、後白河院と清盛がずーっとバトルをくりひろげることになるわけだけど、それってこうして引きのアングルで見ると、その数十年前からくりひろげられてきた
「実家vs. 義実家」
の延長戦十五回ウラみたいなもんなのだ。(実家=後白河院、義実家=清盛)
 そのアングルなしで
「清盛は正しいまつりごとを乱した大悪人」
という、八百年前のアンチ清盛キャンペーンのキャッチコピーをまんまくりかえすのは、ちょっと何言ってるな話なのでやめたほうがいいと思う。つい最近の歴史小説にもあったりして愕然とする。
 そんなバナナ!
 と、平家一門でなくても叫びたくなる。


※参考:
美川圭『院政 もうひとつの天皇制(増補版)』中公新書、2021年.
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登場人物紹介

静/アリア(しずか/ありあ)

この物語のヒロイン。しばらく出てきてないけどヒロインの位置は不動。
明るく素直で天然。特技は歌とダンスと水泳、ばかりでなく、雨を降らせる特殊能力を持っているが、本人はその重大性に気づいていないらしい。惚れっぽく、美しい者には見境なくフォーリンラブしてしまう。ために現在いろいろとややこしいことになっている。海霊族(ネレイド)。

源九郎義経/クロード(みなもとのくろうよしつね/くろーど)

アリアの恋人。天性の人たらし。アリアを熱愛する一方で(このところ忘れてるように見えるがぜんぜんそんなことはない)、実姉のカミーユ(頼朝)とぬきさしならない愛憎関係にある。目下の課題はカミーユが配置した包囲網を突破してとにかく生きのびること。樹霊族(ドリュアード)。

崇徳院/マクシミリアン(すとくいん/まくしみりあん)

かつての上皇でいまは神。崇徳は諡(おくりな=没後に贈られる称号)で、諱(いみな=本名)は顕仁(あきひと)。内乱で実弟の後白河帝に敗れ、大怨霊になったとして恐れられているが、素顔はいたって穏やかでシャイ。三人の美官女たちとまったりスローライフを満喫中。龍族(ドラゴン)。

佐藤三郎嗣信/フロリアン(さとうさぶろうつぐのぶ/ふろりあん)

義経四天王の一人。弟の四郎クリストフとともにクロードを主君と仰ぐ。誠実で俊敏だがたまにフライング(先走り)する傾向あり。左肩から右脇腹にかけて貫通創あり。アリアの姉ミランダと熱愛中。火狐(ファイアーフォックス)。

遥/ミランダ(はるか/みらんだ)

アリアの姉。妹思いでクールかつ熱血。特技はアリアと同じく歌とダンスと水泳。アリアとよく似た容貌だが、5センチ背が高い。アリアの行く末を心配し、クロードと引き離したいと願っている。ためにクロードとは犬猿の仲。海霊族(ネレイド)。

巴/パトリシア(ともえ/ぱとりしあ)

ミランダの友人。一人当千の女武者(アスリート)で尽くし好き。恋人の木曽義仲を失い、彼の菩提を弔って生きていたが、正直たいくつしていたところだったため、ミランダとアリアの救出に喜んで参戦する。素はおちゃめ。土霊族(ノーム)。

武蔵坊弁慶/ベンジャミン(むさしぼうべんけい/べんじゃみん)

クロードの右腕。アリア・ミランダの姉妹とも友人。筋骨たくましい大男だが、冷徹な知性派でもあり、クロードの暴走をつねに(かろうじて)食い止めている。こう見えて料理男子。人馬族(ケンタウロス)。

平知盛/ヴァレンティン(たいらのとももり/ばれんてぃん)

平家ファミリーの若きリーダー。肩書は新中納言。クロードとは因縁の仲ながら、互いに親近感を抱いているらしい。現在はフリーのようだが、恋人募集もしていないらしい。パトリシアとはバディとして気が合うらしい。いまだにいろいろ謎な人(作者にとっても)。樹霊族(ドリュアード)。

平忠度/ウィリアム(たいらのただのり/うぃりあむ)


平家ファミリーの主要メンバー。清盛の異母弟(末弟)で、知盛には叔父にあたるが、歳はそれほど違わない。肩書は薩摩守(さつまのかみ)。文武両道で和歌にも武芸にも優れ、しかも性格温厚でひかえめ。樹霊族(ドリュアード)。

平教経/ハロルド(たいらののりつね/はろるど)


ヴァレンティンの従弟。肩書は能登守(のとのかみ)。平家ファミリー最強の戦士。ことに強弓は他の追随を許さない。素は気さくな好青年で、甥のアーサーを溺愛する叔父バカ。樹霊族(ドリュアード)。

安徳帝/アーサー(あんとくてい/あーさー)

先帝。六歳(数え年で八歳)。平家ファミリーの秘蔵っ子。安徳は諡(おくりな)で、諱(いみな)は言仁(ときひと)。本人は「天のうをやめれた」ことを喜んでいる。巻三でクロードにプロポーズした。樹霊族と龍族両方の血を引く「ダブル」。

建礼門院徳子/マーガレット(けんれいもんいんとくこ/まーがれっと)

平家ファミリー秘蔵の姫。清盛の娘、知盛の妹。安徳帝の母。
平家ファミリー主要キャラのうちほぼ唯一の生き残り。運命に翻弄された悲劇のヒロイン……にしては笑い上戸の陽キャ。いまは京都郊外の大原で一門の菩提を弔いつつ、趣味の園芸を絶賛エンジョイ中。樹霊族(ドリュアード)。

後白河雅仁/ローレンス(ごしらかわまさひと/ろーれんす)


法皇。この国の最高権力者の地位にありながら、つねに周囲の予想のななめ上を行くキッチュな異端児。今様(Jポップ)と絵巻物(マンガ)をこよなく愛し、膨大なコレクションを持つ。愛妻ジェニファー(滋子)の没後もいちずに彼女を想いつづける純愛の人でもある。龍族(ドラゴン)。

九条兼実/ウィンストン(くじょうかねざね/うぃんすとん)

名門・藤原摂関家のCEO(最高経営責任者)。苦節二十年(と言ってもその間ずっと右大臣)、晴れて摂政に就任する。頼朝の盟友である一方で義経にも深い共感を寄せ、後白河院には振り回されるという忙しい人。座右の銘は「まずいワインを飲んでいられるほど、人生は長くない」(ヴォルフガング・フォン・ゲーテ)。山霊族(オレアード)。

慈円/エイドリアン(じえん/えいどりあん)

ウィンストンの弟。天台宗の高僧。のちに座主(寺院のトップ)を四度勤める。当代きっての歌人でもあり、六千首にもおよぶ和歌を残している。政治家の兄を宗教界からバックアップする影の実力者でありながら、頼朝と遊び歌でふざけあう無邪気な一面も持つ。山霊族(オレアード)。

源由良頼朝/カミーユ(みなもとのゆらよりとも/かみーゆ)


鎌倉殿。そろそろ征夷大将軍になるところ。最愛の弟クロードを断腸の思いで追討。そのわりにその後あんまり苦悩してなさそうなのは、たんに作者が書くのを忘れているからだ。最近エイドリアンという新しいメル友ができた。樹霊族(ドリュアード)。

佐藤四郎忠信/クリストフ(さとうしろうただのぶ/くりすとふ)


義経四天王の一人。兄の三郎フロリアンとともにクロードを主君と仰ぐ。内気で目立つのが苦手。「天性極信」(てんせいごくしん)、つまり「めちゃくちゃいいやつ」と広辞苑第五版にも書かれている(「極信」で引いてみてください)。ヒロインのアリアと両片思い中。水狐(ウォーターフォックス)。

畠山次郎重忠/ロバート(はたけやまじろうしげただ/ろばーと)

鎌倉幕府の重要御家人の一人。清廉潔白な人柄でカミーユの信頼厚く、「坂東武士の鑑(かがみ)」と称される。クロードとカミーユの不和に心を痛め、ひそかにクロードの逃亡に尽力している。見た目しゅっとしているのに力持ち。音楽の才能もあるらしい(そのうち出てくる予定)。人馬族(ケンタウロス)。

阿野全成/アントワーヌ(あのぜんじょう/あんとわーぬ)

醍醐寺(真言宗)の荒法師。クロードの同母兄、カミーユの異母兄※。悪禅師(あくぜんじ)の異名を取るわりにはクロードの何分の一も暴れておらず、そんな自分の生き方(というかキャラ設定)に疑問を抱く毎日。樹霊族(ドリュアード)。
※史実では頼朝より年下ですが、このお話ではお兄さんに設定してあります。

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