第17話 村への入り口 その2

文字数 2,092文字

 しかたなくユンは穴の説明を始めた。

 「次元て、わかるわよね?」

 「うん、SFや何かで読んだことがある。
人が住んでいる空間とは別の空間があってそれが異次元とか・・。
その次元が人間のいる次元と接しているとか、いないとか。
で、人は接しているその次元を見る事も行くこともできない。」

 「まぁ間違っちゃいないわね、それで。
細かいことはいいとしてそういう空間よ。
つまりこの穴というのは、次元と次元が接している場所、つまり壁のような所に穴を空けたと思えばいいわ。」

 「そうなんだ。」
 「良かった、分かってくれて。」
 「うん、分かんない。」
 「あのねぇ!!」

 「分かんないけど、穴の一種だとわかった。」
 「はぁ~・・、まぁいいか、穴だという事は理解したのね。」
 「うん、細かいことは気にしちゃ禿()げるよ。」
 「あのね、河童は禿げているの! 皿があるでしょ。」

 「あ、そうか~・・、でもユンは人間の女性と同じ容姿だから皿ないじゃん?」
 「バカなの君は?」
 「へ?」
 「河童が人間の女と同じはずがないじゃない。」

 「え?でも人間の女性と同じにみえるんだけど・・。」
 「人間の世界に行くから、河童とバレないように念のために変装してんの!」
 「え?でも水かきは見えるし、裸足で歩いているでしょ?」
 「そんなのささいな問題でしょ?」

 「いや、人間はそれを見たら物の怪だと分かるよ?」
 「そうなの?」
 「うん。」
 「知らなかった。皿と(くちばし)だけ隠せばわからないと思ったわ。」

 「いや、甲羅(こうら)も・・。」

 「え、だってアニメだったかしら甲羅を背負っている人がいたわよね?
カメハメなんとか言って。
亀が何を()めたいのか知らないけどさ。
それにコスプレだとか言ったかしら、それがあるんだもの、分からないんじゃないの?」

 翼は頭をかかえた。なんで物の怪だとばれないと思うんだ?と。

 だが・・
そうなのかも?
確かにコスプレだと思う人がいるんじゃね?
と、思い始めた。

 いや・・
まてまてまて! それはない!
冬でも裸足(はだし)で歩き、足に水かきがはっきりくっきりと見えている。
しかも甲羅を背負って歩いている女性など見て、誰がコスプレだと思うんだ?!
そんな訳ない!

 ちょっとでも有るかもと思った自分を殴りたくなった。
とはいえユンたちは霊能力者でなければ見えない存在だ。
普通の人間には見る事も、気がつくこともない。
なら、ユンが変装しようがしまいが同じだ。
ならば良しとしよう。

 そして翼は気分を切り替えてユンに不思議に思ったことを聞いた。

 「ところでこの穴って、さっきユンが手を(かざ)すまで見えなかったよね。」
 「え? それを聞くの?」

 ユンは”またか、また説明か”という顔をした。
ユンは

しながらも説明を始めた。

 「村の入り口は隠されていると入れないから、さっきのようにして隠した穴を出すの。」
 「えっと、人間に見えないと言ったのは隠しているからという事?」
 「そうよ。」

 「なんで隠すの?
物の怪を退治する危険な人間は絶対に入れないし入れない空間でしょ、ここは?
迷い込んだ危険のない人間か、物の怪しかいない場所だから隠す必要なんてないでしょ?」

 「この異次元というか異世界が、物の怪の各村を接続していると言ったの覚えている?」
 「えっと・・、なんとなく?」

 「何で疑問系で答えんのさ?
まぁいいか・・。
物の怪は一度村からこの異次元に出てから、他の物の怪の村に行くの。
また人間のいる世界に行くときもね。
つまり、ここに出ないとどこにも行けないの。
逆に言うと、ここからはどの村にも行けると言う事よ?
でもね、物の怪同士、敵対しているモノもいるの。
何が言いたいかわかる?」

 「害意ある物の怪が、簡単に入り口を見つけて入らないようにしている?」

 「あら、翼、あんた案外頭がいいのね?」
 「案外?」
 「うん。」
 「そ、それはどうも・・有り難う?」
 「どういたしまして。」

 「ところで、どうやって隠しているか分からないんだけど?
本当に俺では穴を見つけることはできないの?
霊的な能力で(おこな)っているなら、できない事はないような気がするんだけど?」

 その言葉にユンは再びため息をついた。
そしてユンは説明を始める。

 「いいこと、この穴の正面にある空間をねじ曲げて、穴を隠しているの。
ねじ曲げた空間は穴の反対側につながっているわ。
つまりこの穴の正面から見ると、穴の裏側の景色が見える。
ようするに穴は絶対に見えないという事よ。
もし見えない穴に対し歩いて行くと気がつかないうちに曲がった空間に入ることになる。
そして穴の後ろに出るわ。
ここまでは分かる?」

 「うん、なんとなく、たぶん。」
 「たぶん?・・、まぁいいか・・・。」
 「要は空間を曲げてあるのを元に戻せば、穴が見えるという事だよね?」
 「そうよ。」
 「なるほどね、俺には空間をねじ曲げたり戻したりなんてできやしない。」
 「あのね、翼だけでなく人間には出来ないの!」
 「あ、そう。」

 あっさりと納得する翼に、ユンはポカンとした。
もう少し何とかならないかと食い下がると思ったからだ。
ユンにとって面倒くさくなくてよかっただろうに・・・。
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