第54話 筆頭与力との話し合い その3
文字数 3,197文字
翼は平助の言葉に首を傾げた。
さっきケルは自分を友人でもなんでもなく、そして物の怪をためらいもなく斃 すやからみたいな言い方をしていたのだが・・。
それなのに平助の言った事は、それと真逆である。
もしかしたらと思った翼の口から、思わず言葉が漏れた。
「ツンデレ?」
平助はその言葉を聞き、首を傾げた。
「”つんでれ”とはなんじゃ?」
「え?」
「人間よ、今、そう言ったではないか?」
その言葉に、まずい!と思わずケルを見た。
ケルはというと、ポカンとしていた。
おそらくケルもツンデレの意味がわからないのであろう。
ケルは、翼に何を言ったんだという顔をして、それから平助を見た。
翼はソッポを向いた。
ケルは眉間 に皺 をよせる。
「おぃ、翼! ツンデレとは何だ、白状しやがれ!」
「つんでれ? はて? 俺そんな事を言ったっけ?」
平助はその言葉に呆 れて、翼につっこむ。
「お前、つんでれ、と、ハッキリと言ったではないか?」
「平助さん、余計な事は言わないでくれない?」
「余計な事か?」
「ええ、余計です」
「翼!! てめぇ、そのツンなんとかとは俺の事か!」
「何のこと?」
「とぼけんじゃねぇ!」
翼とケルはしばし目を合わせ、やがて翼は目を逸らした。
だがケルは翼から目を離さない。
翼はしかたなくケルを再び見た。
「ケル、ツンデレの意味を知りたいの、本当に?」
「お~よ!」
「本当の本当に知りたいの?」
「そうだと言ってんだろうが!」
「知りたいの? そう? 知りたいんだ、へ~ぇ・・・」
翼の奥歯に物が挟 まった言い方に、ケルは一瞬押し黙る。
そんなケルに翼は言葉を続ける。
「分かった、ツンデレの意味は・」
「待て! 言うんじゃねぇ!」
「え? 知りたいんでしょ?」
「どうせろくでもねぇ事だろうがぁ!」
「よく分かってんじゃん」
「それを聞いたら俺はどうすると思う?」
「言うまでもないじゃん。ケルはたぶん怒ると思うよ、保証してもいい」
「だろうがぁ! だから知らん方がいいってやんでぇ!
いいか、翼、二度とそのツンなんとかとか言って見ろ、ぶっ飛ばすぞ!」
「ええ~?! 意味もわからずにぶっ飛ばすのはよくないよ。
意味を教えるから分かってからぶっ飛ばしてよ」
「分かった、意味を聞く前にぶっ飛ばす!」
「ちょ、ちょっと待て! それは酷く ないか!?」
「いいんだ、翼だからな!」
「はぁ~?! をぃケル! それはどういう意味だ!」
「言葉通りだ! 日本語さえ解らんのか、このボケ!」
「なんだとう! この脳筋 ガッパ!」
「のうきんだぁ! こちとら農金 なんぞに用はねえ!
農協なんぞ、俺は嫌でぇ!
俺がつくったキュウリは農協なんぞ通さずに、市場に直送だぁ、分かったかぁ!!」
「へ?! な、なんで農協?・・。脳筋がなんで農協なのさ?
のうきん、のうきん・・、あ、農金 ! 農業貯金の事か、なるほど!」
「なぁにを納得してやがんでぇ!
てめぇがそういったんじゃねぇか、このスットコドッコイがぁ!」
「農金なんて言ってないぞケル?」
「あんだとう! 言ったじゃねえかよ!」
「だから脳筋 、農金 じゃなくて!」
「ほれみろ! 農金と言ってるじゃねぇか!」
「お前らいい加減にせぬか!
儂 は忙しいんだ、儂がいないところで喧嘩をせぃ!」
平助は二人を怒鳴る。
当然である。
忙しい筆頭与力である。
二人のじゃれ合いになど付き合っていられない。
早くお縄の猫又二人を奉行所の牢にぶち込んで、吟味を与力に任せたいのである。
ケルは平助に一喝されて飛び上がり、慌てて平謝りをする。
「も、申し訳ございません、平助様!」
「あ、わりぃ、猫又の爺様 。
でもさぁ、事の発端は爺様が俺がひとりごちったツンデレをケルに言うからだろ?
まさか独り言を拾 うなんてさ」
「儂は猫又 だ。
耳が良いにきまっているだろうが。
耳が良いから猫又が奉行所をやっているんだ。
そんな事も知らんのか?」
「知らねぇよ! 人間にわかりっこないでしょう、そんな事」
「ふむ、それもそうか、じゃがな、ツンデレと言ったのは貴様だ。
それを儂のせいにするのはどうかと思うが?」
「ああっと・・・、それもそうか、ゴメン」
「やけに素直だな?」
「いや、何て言うか、ケルと言い争っていて、つい興奮していたみたいだ。
ちょっとした八つ当たりになってしまったかも」
「まぁ良いわ」
そう言って平助はケルを見た。
「ケル、説明をしてやれ。
此奴 を奉行所に連れて行く理由を。
儂はこれ以上茶番 に付き合う気はないぞ?」
「はい、済みませんでした平助様」
そう言ってケルは頭を下げた。
そして翼に向き合う。
「奉行所にいる人間は、おそらくユリだ」
「え!!」
「異次元空間で彷徨 っているところを、お奉行が見て・・・。
えっと、平助様、捕縛 でよろしいんですか?」
「捕縛ではない、客人扱いに近いな。
まぁ、客人扱いの監視対象と言ったところじゃがな」
「だ、そうだ翼」
「ゆ、ユリが・・、み、見つかった・・・」
翼はその場にへたり込んだ。
放心状態となった翼を、ケルと平助は優しい目で見ていた。
探し求めていた番い が見つかった翼の気持ちをくんだのであろう。
やがて翼から、言葉が漏れた。
「あ、あれ? な、なんか景色がぼやけて見える・・」
「そうか、まぁ、そういう時もあるかもな」
翼は泣いていた。
だが、自分が泣いている事に気がついていない。
ケルは懐 から手ぬぐいを出すと翼に渡した。
「え? 何、ケル、俺、手ぬぐいなんかいらないけど?」
「顔を触ってみろ」
その言葉に翼は右手で頬を触る。
「え・・涙? あれ、俺、泣いている・・のか?」
「ふん、お前が泣くわけないだろう。
そんな情緒がお前になどねぇ」
「な、なんだとぉ! 俺は情緒の塊 だ!
言っとくがな、ユリは俺の情緒に溢 れた性格に惚 れたんだ!
俺の優 しさに!」
「バカ言ってんじゃねぇや、優しさじゃなくてお前の軟弱な所だろうが!
ほっといたら周りから虐められてたんじゃねぇかぁ、をぃ!
だからユリが可哀想だと思って結婚したんだろうが!
テメェが萎 れたキュウリのような性格だからよお!」
「はぁ! ケル、てめぇ、よく言うな!
お前の方こそ、ユンに見捨てられるんじゃねぇかと思っているチキンだろうが!」
「だぁれがチキンだ、俺は河童だ、鶏と区別もつかんねぇのか!
このノウタリンがぁ!」
「だぁれが脳足りんだぁ!」
「お前らいいかげんにせぃ!! このバカどもが!」
平助の一喝に二人は押し黙った。
気まずそうにケルと翼は互いを見て、目でおめぇのせえだと言い合う。
まるで子供が兄弟喧嘩 をし、親から叱られたかのようだ。
平助はため息を吐 く。
「で、人間、奉行所に来るのか、来んのか?
儂はどちらでもかまわんぞ?」
「ユリと会わせて下さい!!
あ、え? あれぇ、でも、奉行所に行ったら俺は吟味 ・・でしょ?
ユリの無実はここに来て証明されたから、ユリに問題はないし・・?
え、どうしよう?」
「お前は河童の村を追放された身じゃぞ?
儂について奉行所に来ぬのなら、お前が行くのは異次元空間しかあるまい。
ユリとかいう人間も奉行所から放免されるであろうが、その場合も異次元空間じゃ。
放免されたユリとかをどうやって捜す?
広大な異空間から捜せだせればよいがのう」
「あ!」
「それにじゃ、肝心な事を忘れてはおらぬか?」
「え?」
「ケルが何故にお前を追放などと言い出したか分からぬか?」
「俺が嫌いだからでしょ?」
「お前なぁ・・・、まぁケルも素直でないからどうしようもないがのう・・・、
ケルはお前とユリを会わせるため追放し奉行所へ行くように仕向けたのじゃよ」
翼は思わずケルを見た。
「な、なんだ?! 何か俺に文句で・」
ケルが言い終わらないうちに、翼は立ち上がりケルに抱きついた。
突然のことにケルは驚き、口をポカンと開けた。
さっきケルは自分を友人でもなんでもなく、そして物の怪をためらいもなく
それなのに平助の言った事は、それと真逆である。
もしかしたらと思った翼の口から、思わず言葉が漏れた。
「ツンデレ?」
平助はその言葉を聞き、首を傾げた。
「”つんでれ”とはなんじゃ?」
「え?」
「人間よ、今、そう言ったではないか?」
その言葉に、まずい!と思わずケルを見た。
ケルはというと、ポカンとしていた。
おそらくケルもツンデレの意味がわからないのであろう。
ケルは、翼に何を言ったんだという顔をして、それから平助を見た。
翼はソッポを向いた。
ケルは
「おぃ、翼! ツンデレとは何だ、白状しやがれ!」
「つんでれ? はて? 俺そんな事を言ったっけ?」
平助はその言葉に
「お前、つんでれ、と、ハッキリと言ったではないか?」
「平助さん、余計な事は言わないでくれない?」
「余計な事か?」
「ええ、余計です」
「翼!! てめぇ、そのツンなんとかとは俺の事か!」
「何のこと?」
「とぼけんじゃねぇ!」
翼とケルはしばし目を合わせ、やがて翼は目を逸らした。
だがケルは翼から目を離さない。
翼はしかたなくケルを再び見た。
「ケル、ツンデレの意味を知りたいの、本当に?」
「お~よ!」
「本当の本当に知りたいの?」
「そうだと言ってんだろうが!」
「知りたいの? そう? 知りたいんだ、へ~ぇ・・・」
翼の奥歯に物が
そんなケルに翼は言葉を続ける。
「分かった、ツンデレの意味は・」
「待て! 言うんじゃねぇ!」
「え? 知りたいんでしょ?」
「どうせろくでもねぇ事だろうがぁ!」
「よく分かってんじゃん」
「それを聞いたら俺はどうすると思う?」
「言うまでもないじゃん。ケルはたぶん怒ると思うよ、保証してもいい」
「だろうがぁ! だから知らん方がいいってやんでぇ!
いいか、翼、二度とそのツンなんとかとか言って見ろ、ぶっ飛ばすぞ!」
「ええ~?! 意味もわからずにぶっ飛ばすのはよくないよ。
意味を教えるから分かってからぶっ飛ばしてよ」
「分かった、意味を聞く前にぶっ飛ばす!」
「ちょ、ちょっと待て! それは
「いいんだ、翼だからな!」
「はぁ~?! をぃケル! それはどういう意味だ!」
「言葉通りだ! 日本語さえ解らんのか、このボケ!」
「なんだとう! この
「のうきんだぁ! こちとら
農協なんぞ、俺は嫌でぇ!
俺がつくったキュウリは農協なんぞ通さずに、市場に直送だぁ、分かったかぁ!!」
「へ?! な、なんで農協?・・。脳筋がなんで農協なのさ?
のうきん、のうきん・・、あ、
「なぁにを納得してやがんでぇ!
てめぇがそういったんじゃねぇか、このスットコドッコイがぁ!」
「農金なんて言ってないぞケル?」
「あんだとう! 言ったじゃねえかよ!」
「だから
「ほれみろ! 農金と言ってるじゃねぇか!」
「お前らいい加減にせぬか!
平助は二人を怒鳴る。
当然である。
忙しい筆頭与力である。
二人のじゃれ合いになど付き合っていられない。
早くお縄の猫又二人を奉行所の牢にぶち込んで、吟味を与力に任せたいのである。
ケルは平助に一喝されて飛び上がり、慌てて平謝りをする。
「も、申し訳ございません、平助様!」
「あ、わりぃ、猫又の
でもさぁ、事の発端は爺様が俺がひとりごちったツンデレをケルに言うからだろ?
まさか独り言を
「儂は
耳が良いにきまっているだろうが。
耳が良いから猫又が奉行所をやっているんだ。
そんな事も知らんのか?」
「知らねぇよ! 人間にわかりっこないでしょう、そんな事」
「ふむ、それもそうか、じゃがな、ツンデレと言ったのは貴様だ。
それを儂のせいにするのはどうかと思うが?」
「ああっと・・・、それもそうか、ゴメン」
「やけに素直だな?」
「いや、何て言うか、ケルと言い争っていて、つい興奮していたみたいだ。
ちょっとした八つ当たりになってしまったかも」
「まぁ良いわ」
そう言って平助はケルを見た。
「ケル、説明をしてやれ。
儂はこれ以上
「はい、済みませんでした平助様」
そう言ってケルは頭を下げた。
そして翼に向き合う。
「奉行所にいる人間は、おそらくユリだ」
「え!!」
「異次元空間で
えっと、平助様、
「捕縛ではない、客人扱いに近いな。
まぁ、客人扱いの監視対象と言ったところじゃがな」
「だ、そうだ翼」
「ゆ、ユリが・・、み、見つかった・・・」
翼はその場にへたり込んだ。
放心状態となった翼を、ケルと平助は優しい目で見ていた。
探し求めていた
やがて翼から、言葉が漏れた。
「あ、あれ? な、なんか景色がぼやけて見える・・」
「そうか、まぁ、そういう時もあるかもな」
翼は泣いていた。
だが、自分が泣いている事に気がついていない。
ケルは
「え? 何、ケル、俺、手ぬぐいなんかいらないけど?」
「顔を触ってみろ」
その言葉に翼は右手で頬を触る。
「え・・涙? あれ、俺、泣いている・・のか?」
「ふん、お前が泣くわけないだろう。
そんな情緒がお前になどねぇ」
「な、なんだとぉ! 俺は情緒の
言っとくがな、ユリは俺の情緒に
俺の
「バカ言ってんじゃねぇや、優しさじゃなくてお前の軟弱な所だろうが!
ほっといたら周りから虐められてたんじゃねぇかぁ、をぃ!
だからユリが可哀想だと思って結婚したんだろうが!
テメェが
「はぁ! ケル、てめぇ、よく言うな!
お前の方こそ、ユンに見捨てられるんじゃねぇかと思っているチキンだろうが!」
「だぁれがチキンだ、俺は河童だ、鶏と区別もつかんねぇのか!
このノウタリンがぁ!」
「だぁれが脳足りんだぁ!」
「お前らいいかげんにせぃ!! このバカどもが!」
平助の一喝に二人は押し黙った。
気まずそうにケルと翼は互いを見て、目でおめぇのせえだと言い合う。
まるで子供が兄弟
平助はため息を
「で、人間、奉行所に来るのか、来んのか?
儂はどちらでもかまわんぞ?」
「ユリと会わせて下さい!!
あ、え? あれぇ、でも、奉行所に行ったら俺は
ユリの無実はここに来て証明されたから、ユリに問題はないし・・?
え、どうしよう?」
「お前は河童の村を追放された身じゃぞ?
儂について奉行所に来ぬのなら、お前が行くのは異次元空間しかあるまい。
ユリとかいう人間も奉行所から放免されるであろうが、その場合も異次元空間じゃ。
放免されたユリとかをどうやって捜す?
広大な異空間から捜せだせればよいがのう」
「あ!」
「それにじゃ、肝心な事を忘れてはおらぬか?」
「え?」
「ケルが何故にお前を追放などと言い出したか分からぬか?」
「俺が嫌いだからでしょ?」
「お前なぁ・・・、まぁケルも素直でないからどうしようもないがのう・・・、
ケルはお前とユリを会わせるため追放し奉行所へ行くように仕向けたのじゃよ」
翼は思わずケルを見た。
「な、なんだ?! 何か俺に文句で・」
ケルが言い終わらないうちに、翼は立ち上がりケルに抱きついた。
突然のことにケルは驚き、口をポカンと開けた。