第72話 猫又事情 その2
文字数 2,490文字
お奉行の話しをまとめると、翼にとって有意義な話しは以下となる。
猫又至上主義は人間界にいる人間を隷属させることを視野に入れている。
つまり人間界に大がかりな戦争をしかけての侵略だ。
この秘密結社は猫又社会では人間界でいうとチンピラの集まりのようなものらしい。
グループを形成するが、他のグループとは相容れずボス山の猿争いをしている。
マフィアのように強大になったり、為政者 になるモノがいれば危ないが、今のレベルでは人間界にチョッカイを出すなど無理がある。
寝言は寝て言えというレベルだ。
それよりも問題なのは人間を撲滅するなどという思想の猫又だ。
撲滅という大がかりなものでなくとも、人間界に来て人間を狩っている連中である。
人間が狐狩りや鷹狩りをする感覚のような感覚でだ。
一匹でも人間界に来てもらっては困る。
野放しにできるモノ達ではない。
そして奉行所はこの猫又達については、そのような思想のモノがいるということしか分かっていない。
つまり情報を掴 めていないのである。
よって今回初めてその思想のモノが見つかったのだ。
それも奉行所で。
そう・・市之助だ。
市之助は役人として優秀であり品行方正、職務も忠実であったそうだ。
ただ最近は自分の強さを鼻にかけており、お奉行としてはそろそろ鼻を折っておかなければと思っていたらしい。
そして市之助は人間嫌いの様子も見受けられるようになった。
とはいえ物の怪は大概人間を嫌う。
人間を毛嫌いする物の怪のレベルで考えると、奉行所としては許容できたという。
そんな市之助の鼻を人間の退治屋に折らせようとお奉行は思ったようだ。
翼は呆れた。
たしかに鼻くらいは折ってやるのは造作 もない。
しかし、人間を見下して毛嫌いしているモノが試合で負けたら、さらに人間を嫌うようになるのではないか?と翼は思った。
そう疑問を言葉にすると、お奉行は武芸者は強敵に対し真摯に向きあうものだという。
それも相手に負ければ尚更らしい。
だから人間であろうと、尊敬の念を抱くとか。
それが武家であり武芸者だとも。
翼には理解できない論理であった。
そういうものだと思って理解をするのはやめた。
兎 にも角 にも市之助は奉行所では、エリートで将来有望なモノと見られていたようだ。
そのため人間を撲滅 するなどという奉行所を敵に回すような思想などあるはずが無いという思い込みがあった。
それを聞いて、翼は今までのお奉行の様子や市之助をかばった猫又達の挙動 が理解できた。
今回試合中に翼から奉行所のモノは突然それを指摘されたのだ。
彼らからすれば根拠の無い指摘をされ反発をし、それが翼からしたら猫又同士が庇 いあっているように見えたということである。
お奉行は翼に今後の見通しを話し始めた。
「市之助の取り調べは難航するであろう。
なにせ人間を撲滅しようとしている彼奴 らは口が重い。
奉行所が嗅 ぎまわっても尻尾 を出さない連中だからな。
例え市之助を拷問 にかけようとも口は割 らんであろうよ」
「つまり、どうなる?」
「罪人認定する材料は、お前の見立てだけだ。
それでは罪人として裁く事は、この奉行所ではできん。
証拠を捜して裁こうとしても、証拠などおそらく出てはこぬ。
そのような物など残しておくとは思えんからのう。
それほど優秀な男なのだよ。
正直、奉行所として市之助がいなくなるのは誠に惜しい」
「まさか形だけの裁判をして無罪放免にしようなどと思っていないだろうな?」
「当たり前だ。
ただお前の証言だけでは無罪となると言っておるのだ。
じゃが市之助が要因となって、人間と戦争などになったらたまったものではない。
それに市之助が人間界で人間を狩っていた事がこの里の猫又達、いや他の物の怪らに知れ渡れば奉行所のメンツは丸つぶれだ。
ならば市之助には別の罪で消えてもらうしかない。
誠に惜 しい人材なのだがな・・」
「結局どうするんだ?」
「切腹 をさせる」
「切腹? なぜ切腹なんだ?」
「切腹は侍として死ねる栄誉だからだ」
「なぜ罪人である市之助に栄誉を?」
「もし切腹でないなら奉行所の役人として落ち度があり侍の身分を剥奪された事になる。
さすれば奉行所に対し、どういう落ち度があったのかと話題になる。
興味本位で奉行所を探られ、それにより今回の件がどこからか漏れる可能性がある」
「なるほどね、でも、それは切腹でも同じじゃねぇの?」
「切腹ならば武家同士の争いごとによるものだと認識するのだよ。
他家の争いごとになど首を突っ込んで藪蛇 になどなりたくないのが武家だ。
親族などが奉行所に無罪など抗議をすれば、罪人を庇うことになり武家としての汚点となる。
そのため奉行所への抗議や、それにともなう奉行所へ探りを入れる事はまずは無い。
しばし巷 で噂話 にされるくらいであろうよ」
「う~ん・・、武家の世界はよく分からないとうい事が分かった」
「わからない事が分かった? 分からんという事ではないか」
「うん、別に分からなくてもいいや。
人間界に悪さをしないよう処分が下 されるならそれでいい」
「そうか・・・」
お奉行は目をつむる。
苦渋に満ちた顔が、今の心情を物語っていた。
お奉行は目を開くと、場に居たモノ達に確認をとる。
「お前達、何か言い分はあるか?」
そう言って周りを見回す。
だが誰からも意見はなかった。
ただ周りも苦渋に満ちた顔であった。
「切腹の沙汰 でよいのだな?」
再度問うお奉行に対し、一同は互いを目くばせし無言で頷 いた。
「うむ、決まりだな。
切腹となる理由は後日考えるものとする」
その言葉に翼は眉を顰めた 。
それに気がついたお奉行は困った奴だという顔をする。
「翼よ、切腹させるには物の怪の法律を知っていなければ理由付けできぬぞ?
お前にその知識があるのか?」
「無いよ?・・、あ、そうか、俺がいても意味はないか」
「まぁ評定 に参加してもよいが、かなり長いものとなるぞ?」
「是非 ともご遠慮させてもらいます!
約束さえ守ってもらえるなら、俺から何も言う事はないよ」
「約束を違 える事はない、安心せい」
「うん、お奉行を信じちゃうよ」
そう言って翼はニコリとした。
猫又至上主義は人間界にいる人間を隷属させることを視野に入れている。
つまり人間界に大がかりな戦争をしかけての侵略だ。
この秘密結社は猫又社会では人間界でいうとチンピラの集まりのようなものらしい。
グループを形成するが、他のグループとは相容れずボス山の猿争いをしている。
マフィアのように強大になったり、
寝言は寝て言えというレベルだ。
それよりも問題なのは人間を撲滅するなどという思想の猫又だ。
撲滅という大がかりなものでなくとも、人間界に来て人間を狩っている連中である。
人間が狐狩りや鷹狩りをする感覚のような感覚でだ。
一匹でも人間界に来てもらっては困る。
野放しにできるモノ達ではない。
そして奉行所はこの猫又達については、そのような思想のモノがいるということしか分かっていない。
つまり情報を
よって今回初めてその思想のモノが見つかったのだ。
それも奉行所で。
そう・・市之助だ。
市之助は役人として優秀であり品行方正、職務も忠実であったそうだ。
ただ最近は自分の強さを鼻にかけており、お奉行としてはそろそろ鼻を折っておかなければと思っていたらしい。
そして市之助は人間嫌いの様子も見受けられるようになった。
とはいえ物の怪は大概人間を嫌う。
人間を毛嫌いする物の怪のレベルで考えると、奉行所としては許容できたという。
そんな市之助の鼻を人間の退治屋に折らせようとお奉行は思ったようだ。
翼は呆れた。
たしかに鼻くらいは折ってやるのは
しかし、人間を見下して毛嫌いしているモノが試合で負けたら、さらに人間を嫌うようになるのではないか?と翼は思った。
そう疑問を言葉にすると、お奉行は武芸者は強敵に対し真摯に向きあうものだという。
それも相手に負ければ尚更らしい。
だから人間であろうと、尊敬の念を抱くとか。
それが武家であり武芸者だとも。
翼には理解できない論理であった。
そういうものだと思って理解をするのはやめた。
そのため人間を
それを聞いて、翼は今までのお奉行の様子や市之助をかばった猫又達の
今回試合中に翼から奉行所のモノは突然それを指摘されたのだ。
彼らからすれば根拠の無い指摘をされ反発をし、それが翼からしたら猫又同士が
お奉行は翼に今後の見通しを話し始めた。
「市之助の取り調べは難航するであろう。
なにせ人間を撲滅しようとしている
奉行所が
例え市之助を
「つまり、どうなる?」
「罪人認定する材料は、お前の見立てだけだ。
それでは罪人として裁く事は、この奉行所ではできん。
証拠を捜して裁こうとしても、証拠などおそらく出てはこぬ。
そのような物など残しておくとは思えんからのう。
それほど優秀な男なのだよ。
正直、奉行所として市之助がいなくなるのは誠に惜しい」
「まさか形だけの裁判をして無罪放免にしようなどと思っていないだろうな?」
「当たり前だ。
ただお前の証言だけでは無罪となると言っておるのだ。
じゃが市之助が要因となって、人間と戦争などになったらたまったものではない。
それに市之助が人間界で人間を狩っていた事がこの里の猫又達、いや他の物の怪らに知れ渡れば奉行所のメンツは丸つぶれだ。
ならば市之助には別の罪で消えてもらうしかない。
誠に
「結局どうするんだ?」
「
「切腹? なぜ切腹なんだ?」
「切腹は侍として死ねる栄誉だからだ」
「なぜ罪人である市之助に栄誉を?」
「もし切腹でないなら奉行所の役人として落ち度があり侍の身分を剥奪された事になる。
さすれば奉行所に対し、どういう落ち度があったのかと話題になる。
興味本位で奉行所を探られ、それにより今回の件がどこからか漏れる可能性がある」
「なるほどね、でも、それは切腹でも同じじゃねぇの?」
「切腹ならば武家同士の争いごとによるものだと認識するのだよ。
他家の争いごとになど首を突っ込んで
親族などが奉行所に無罪など抗議をすれば、罪人を庇うことになり武家としての汚点となる。
そのため奉行所への抗議や、それにともなう奉行所へ探りを入れる事はまずは無い。
しばし
「う~ん・・、武家の世界はよく分からないとうい事が分かった」
「わからない事が分かった? 分からんという事ではないか」
「うん、別に分からなくてもいいや。
人間界に悪さをしないよう処分が
「そうか・・・」
お奉行は目をつむる。
苦渋に満ちた顔が、今の心情を物語っていた。
お奉行は目を開くと、場に居たモノ達に確認をとる。
「お前達、何か言い分はあるか?」
そう言って周りを見回す。
だが誰からも意見はなかった。
ただ周りも苦渋に満ちた顔であった。
「切腹の
再度問うお奉行に対し、一同は互いを目くばせし無言で
「うむ、決まりだな。
切腹となる理由は後日考えるものとする」
その言葉に翼は
それに気がついたお奉行は困った奴だという顔をする。
「翼よ、切腹させるには物の怪の法律を知っていなければ理由付けできぬぞ?
お前にその知識があるのか?」
「無いよ?・・、あ、そうか、俺がいても意味はないか」
「まぁ
「
約束さえ守ってもらえるなら、俺から何も言う事はないよ」
「約束を
「うん、お奉行を信じちゃうよ」
そう言って翼はニコリとした。