第39話 ユンに逃げられた烏妖は・・・
文字数 2,484文字
異次元空間で烏妖 がユンを逃がしてしまった直後の事である。
ユンが忽然と異次元空間から消えてしまった事に烏妖は怒りを爆発させた。
それというのも烏妖はユンを絶対に逃がさない自信があった。
捕まえたユンを徹底的に痛ぶり、自分の邪魔をした事を後悔させる。
そうなるはずだった。
それなのに片足一本もぎ取っただけで、あっさりと逃げられてしまった。
ふつふつと湧いてくるこの怒りは、自分の間抜 けさに対してなのか侮 った相手が自分より上手であったという思いからなのか分からない。
怒りが抑えきれない。
怒りの一番の原因は、本来ならユンが逃げ込んだ村への入り口がすぐに見つけらたはずなのに見つけられなかった事であろう。
ユンが消えた位置にユンの村への入り口は有る。
それなのにユンが消えたと思われる位置を何度探しても見つからない。
ユンが何らかの能力で自分の位置をずらせてみせる幻影を使ったのかとも思い、周辺をも徹底的に調べた。
それでも見つからなかったのである。
有り得ないことであった。
烏妖はきつく握った拳 を高くかかげて叫んだ。
「ぐぉおおおおおおお!! 出てきやがれ!河童 野郎!!」
叫びながら顔を空に向け目を見開く。
だがユンがそれに答えノコノコと現 れるわけがない。
やがて烏妖はその場にしゃがみ込み、しばらくはそのまま動かなくなった。
やがて烏妖は徐 に立ち上がり、これからどうするか考え始める。
河童の村を探す方法がないかと・・・。
烏妖達はこの異次元空間に村を作ってはいない。
そのためこの異次元空間の事について詳しくはないのだ。
異空間に自分の村が在ったならば、河童についても何らかの情報があったかもしれない。
だが今さらそう思っても仕方のない事である。
そもそも烏妖は何故ほかの物の怪のように異空間に村を作らなかったのであろうか?
その理由は簡単で烏妖達が人間界に住む事を選んだからである。
烏妖は烏 から生まれた物の怪だ。
烏であったころに人里で生活をしていたため、物の怪になっても人間界に住むことを選んだのである。
ただそれだけの事だ。
では烏が人間と馴染んでいたからそうしたのかというと、そうではない。
人間界に溶け込んではいたが、人間からは忌 み嫌われていたのである。
烏が悪いというよりも、それは人間の都合や感情によるものが大きい。
それなのに人間界で暮らす事を烏妖は選択したのだ。
そもそも烏は何故人里で暮らすようになったのであろうか?
烏は元々は人間に頼らず自然界でたくましく生きていた鳥である。
そんな自然に人間は文明の進歩とともに、手を加えはじめた。
森林資源や土地を得るため、森を変えはじめたのだ。
ブナなどのドングリや実のなる広葉樹を、杉や松など人間に役立つモノに植え替えたり、畑や田んぼに変えていった。
そして開拓された畑や田んぼは、やがて宅地へと様変わりを始めた。
さらに山は鉱物資源の採掘や、土砂採掘で削られ森は無くなっていった。
残った森にもやがてゴルフ場や別荘、リゾートホテルが建ち、さらにそこへ続く道が整備されていく。
整備された道の廻りに家が建ち、やがて麓には街が形成された。
このように自然がなくなるに従い、鳥獣達は住む場所を変えねばならなかった。
そのような変化の中、鳥獣達は人里に活路を見いだしていく。
烏もその一つであった。
文明が進むと人間の人口は増え続け、それに対応するため豊富な食材を生産するようになる。やがて食べきれない食材を、人間はゴミとして大量に出すようになる。
ゴミ捨て場は、烏にとっては魅力的な餌 場であった。
さらに人里は巣を作る場所に困ることがなかった。
巣を作る素材はゴミとして提供され、巣作りの場所も河川敷や公園など困ることはない。
このようにして烏は人間の住む場所で生活をするようになっていったのである。
だが、人間はやがて烏によりゴミが食い散らかされるのを嫌がり、ゴミをネットで囲ったりしてゴミ漁 りをさせないようにしはじめた。
しかしゴミ出しの規則を守らない者が多々おり、また道路や山にゴミを捨てる者が多く、餌にはさほど困ることはなかった。
人間のモラル欠如が烏を救ったのである。
それに人間は生活活動により熱を多く出す。
冬でも暖かい場所が街のあちこちに存在し、都会では快適に暮らせたのである。
そのような環境で生まれ育った烏の物の怪である烏妖は、生前の記憶からであろうか異次元空間ではなく人間界に住み着いたのである。
人間が嫌いなのに人間界に居ることを好む、皮肉な事である。
人間界で生活している烏妖は、異空間にめったに行くこともないため異空間には詳しくない。
それに烏妖は異空間に住む物の怪をバカにしていた。
そのため異空間に住む物の怪と反目しており、当然交流などない。
異空間の情報を得る伝 は烏妖にはないのである。
残る手段は人間界へ戻り河童を探して捕まえて吊 るし上げるしかない。
だが物の怪は仲間意識が強い。
自分が助かりたいために、村の入り口を教え村を危険に陥れるようなモノはいないだろう。
河童の村の居場所を他種族の物の怪に探らせるという手もあるが、基本、物の怪は他種族に関わろうとしないし、よほどのメリットがないかぎり烏妖に手助けなどしない。
そもそも閉鎖的な河童は自分の村の位置など、他の種族の物の怪に話す事はないだろう。
手詰まりだった。
妖狼 に退治屋の居所を探してみせると豪語した手前、手ぶらで帰るわけにはいかない。
だがこのまま連絡もせずにいると、妖狼が自分を探しに来るだろう。
自分だけなら妖狼から逃げ回ることはできるが、そうすれば他の烏妖仲間が危険な目にあう事は明白だ。
妖狼は容赦がないので、おそらく烏妖仲間は抹殺されていくだろう。
烏妖である自分が言うのもなんだが、妖狼は非情で容赦がない。
「詰 んだな、俺・・。」
妖狼に取り入ってうまい汁でも吸おうかと思ったのだが、まさかこんなことになるとはな・・・。
そう思い烏妖は、声を出さずに己 を笑った。
「烏妖仲間を犠牲にする訳にはいかんしな・・。」
烏妖はそう呟 くと、異空間から人間界へと戻って行った。
ユンが忽然と異次元空間から消えてしまった事に烏妖は怒りを爆発させた。
それというのも烏妖はユンを絶対に逃がさない自信があった。
捕まえたユンを徹底的に痛ぶり、自分の邪魔をした事を後悔させる。
そうなるはずだった。
それなのに片足一本もぎ取っただけで、あっさりと逃げられてしまった。
ふつふつと湧いてくるこの怒りは、自分の
怒りが抑えきれない。
怒りの一番の原因は、本来ならユンが逃げ込んだ村への入り口がすぐに見つけらたはずなのに見つけられなかった事であろう。
ユンが消えた位置にユンの村への入り口は有る。
それなのにユンが消えたと思われる位置を何度探しても見つからない。
ユンが何らかの能力で自分の位置をずらせてみせる幻影を使ったのかとも思い、周辺をも徹底的に調べた。
それでも見つからなかったのである。
有り得ないことであった。
烏妖はきつく握った
「ぐぉおおおおおおお!! 出てきやがれ!
叫びながら顔を空に向け目を見開く。
だがユンがそれに答えノコノコと
やがて烏妖はその場にしゃがみ込み、しばらくはそのまま動かなくなった。
やがて烏妖は
河童の村を探す方法がないかと・・・。
烏妖達はこの異次元空間に村を作ってはいない。
そのためこの異次元空間の事について詳しくはないのだ。
異空間に自分の村が在ったならば、河童についても何らかの情報があったかもしれない。
だが今さらそう思っても仕方のない事である。
そもそも烏妖は何故ほかの物の怪のように異空間に村を作らなかったのであろうか?
その理由は簡単で烏妖達が人間界に住む事を選んだからである。
烏妖は
烏であったころに人里で生活をしていたため、物の怪になっても人間界に住むことを選んだのである。
ただそれだけの事だ。
では烏が人間と馴染んでいたからそうしたのかというと、そうではない。
人間界に溶け込んではいたが、人間からは
烏が悪いというよりも、それは人間の都合や感情によるものが大きい。
それなのに人間界で暮らす事を烏妖は選択したのだ。
そもそも烏は何故人里で暮らすようになったのであろうか?
烏は元々は人間に頼らず自然界でたくましく生きていた鳥である。
そんな自然に人間は文明の進歩とともに、手を加えはじめた。
森林資源や土地を得るため、森を変えはじめたのだ。
ブナなどのドングリや実のなる広葉樹を、杉や松など人間に役立つモノに植え替えたり、畑や田んぼに変えていった。
そして開拓された畑や田んぼは、やがて宅地へと様変わりを始めた。
さらに山は鉱物資源の採掘や、土砂採掘で削られ森は無くなっていった。
残った森にもやがてゴルフ場や別荘、リゾートホテルが建ち、さらにそこへ続く道が整備されていく。
整備された道の廻りに家が建ち、やがて麓には街が形成された。
このように自然がなくなるに従い、鳥獣達は住む場所を変えねばならなかった。
そのような変化の中、鳥獣達は人里に活路を見いだしていく。
烏もその一つであった。
文明が進むと人間の人口は増え続け、それに対応するため豊富な食材を生産するようになる。やがて食べきれない食材を、人間はゴミとして大量に出すようになる。
ゴミ捨て場は、烏にとっては魅力的な
さらに人里は巣を作る場所に困ることがなかった。
巣を作る素材はゴミとして提供され、巣作りの場所も河川敷や公園など困ることはない。
このようにして烏は人間の住む場所で生活をするようになっていったのである。
だが、人間はやがて烏によりゴミが食い散らかされるのを嫌がり、ゴミをネットで囲ったりしてゴミ
しかしゴミ出しの規則を守らない者が多々おり、また道路や山にゴミを捨てる者が多く、餌にはさほど困ることはなかった。
人間のモラル欠如が烏を救ったのである。
それに人間は生活活動により熱を多く出す。
冬でも暖かい場所が街のあちこちに存在し、都会では快適に暮らせたのである。
そのような環境で生まれ育った烏の物の怪である烏妖は、生前の記憶からであろうか異次元空間ではなく人間界に住み着いたのである。
人間が嫌いなのに人間界に居ることを好む、皮肉な事である。
人間界で生活している烏妖は、異空間にめったに行くこともないため異空間には詳しくない。
それに烏妖は異空間に住む物の怪をバカにしていた。
そのため異空間に住む物の怪と反目しており、当然交流などない。
異空間の情報を得る
残る手段は人間界へ戻り河童を探して捕まえて
だが物の怪は仲間意識が強い。
自分が助かりたいために、村の入り口を教え村を危険に陥れるようなモノはいないだろう。
河童の村の居場所を他種族の物の怪に探らせるという手もあるが、基本、物の怪は他種族に関わろうとしないし、よほどのメリットがないかぎり烏妖に手助けなどしない。
そもそも閉鎖的な河童は自分の村の位置など、他の種族の物の怪に話す事はないだろう。
手詰まりだった。
だがこのまま連絡もせずにいると、妖狼が自分を探しに来るだろう。
自分だけなら妖狼から逃げ回ることはできるが、そうすれば他の烏妖仲間が危険な目にあう事は明白だ。
妖狼は容赦がないので、おそらく烏妖仲間は抹殺されていくだろう。
烏妖である自分が言うのもなんだが、妖狼は非情で容赦がない。
「
妖狼に取り入ってうまい汁でも吸おうかと思ったのだが、まさかこんなことになるとはな・・・。
そう思い烏妖は、声を出さずに
「烏妖仲間を犠牲にする訳にはいかんしな・・。」
烏妖はそう