第3話 翼の両親 その2

文字数 2,527文字

 翼は、母親がユリに言った「家を間違えていますよ」という発言の意味が分からず困惑した。

沈黙が続くこと数10秒・・・。
困惑している場合では無いと気がついた翼が母に声をかけた。

 「あ、あの(かあ)さん?」

 その声に翼の母・(しず)が正気(?)に戻った。

 「え? 何、翼?」
 「お(うち)を間違っているって、何?」

 「え? 貴方(あなた)に言ったんじゃないわよ?」
 「それは分かるよ。」
 「なら何?」
 「だから誰に言ったの?」

 「だから、貴方の後ろにいるお嬢さんに言っているの。
そんな事も分からないの?
まだ若いのにボケたの?
私より先にボケないでよね。
老後の私の面倒はちゃんと見なさいね。」

 「あ、あのね~、母さん!」

 「あ! そうだったわ!」

 静は翼を無視して、後ろにいるユリに話かけた。

 「あのね、お嬢さん、ここは本田(ほんだ)家よ。
どこのお家を訪ねて来たかはわからないけど。
あなた家を間違えていますよ?」

 そう静に再度告げられ、ユリはさらに小首を傾げる。

 「あのね、母さん、この人は・」

 翼はそう言って、後ろを振り向く。
するとそこには、キョトンとしたままのユリがいた。

 翼は一つため息をついた。
そして母に視線を戻した。

 「違うんだ母さん。」
 「違う? 何が?」
 「この人はユリさ・・」

 「分かった!
そのお嬢さん、道が分からずに困っていたのね?
それで道を私達に聞くために翼が連れてきたんでしょ!」

 「ちが~う!! そうじゃない!」
 「あら、じゃあ、何かを落として困っているのかしら?」
 「そうじゃなぃ!!」

 「あらあら・・、それじゃぁ・」
 「僕の結婚相手だ!」

 「?・・・??・・????」

 結婚相手という言葉に、両親の頭に「?」マークが一気に立った。
立ったといっても、ゲームでいうフラグではない。
言っている意味が分からないというマーク、ハテナ・マーク、それが立ったのだ。

 翼の両親がポカンとしたまま沈黙した。
無言となった両親に、今度は翼がキョトンとした。

 え? え? え? 何これ?
結婚相手を家に連れてきて、俺、今、紹介したよね?
なのにこの反応は何?
普通、息子が結婚相手を連れて来たといったら諸手を挙げ(もろてをあげ)て喜ぶもんじゃないの?
え? え? え?

 両親の無言の反応、いや口を開いてポカンとしている両親に翼は戸惑(とまど)った。

 すると両親が正気に戻ったのであろう、いったん口を閉じた後、翼に言う。

 「冗談はやめよう、翼。」

 「そうよ、翼。
貴方にこのような美人が婚約者になどなるわけないじゃないの。
だって貴方、男友達しかいなくて男色(だんしょく)と間違われるような子なのよ?」

 「母さん!!」

 翼はあまりの母の言葉に、顔を真っ赤にして叫んだ。
すると・・・。

 「ふふふふ・・あはははは、はははははは!」

 突然に翼の後ろから笑い声がした。
翼はゆっくりと後ろを振り向く。

 そこにはお腹を抱えて笑い転げるユリがいた。
翼の両親は、突然に笑い始めるユリを見て当惑した。

 「ねえ貴方、私何かおかしな事を言ったかしら?」
 「いいや、まじめな話ししかしていないが?」

 「オヤジ!! 何がまじめな話だ!
なんで俺が男色なんだよ!」

 「おまえな~、今の今まで彼女の一人できたことがあるか?
家に連れてくるのは男友達だけだろう?
私達がそれでお前に『男色か!』と、問い詰めたことを忘れたか?
お前は否定したが、まだその疑惑は晴れていないんだぞ?」

 「何それ?
疑惑が晴れていないって、まるで刑事物で俺が犯人かよ!
それに、おれは違うといっているだろう!」

 翼がそう答えたときだった。
後ろに居るユリが翼に問いかけた。

 「え?! 翼くん、男色だったの!!」
 「え?!」
 「知らなかった・・。」

 「ユ、ユリさん!!
な、何を言ってんの!
おれはノーマル!!
だからユリさんに結婚を申し込んだんじゃないか!」

 「え? でもよく聞くわよ?
男色を隠したいが為に、女性と結婚をしたとか・・。
それで世間を誤魔化して、その後に家庭を(かえり)みず、安心して男色を。」

 「ユ、ユリさん!!
神に誓って言う!
俺は男色ではない!!」

 「え?」
 「だからぁ、俺は男色ではないっていうの!」

 「本当に?」
 「本当だって!」
 「本当の本当に?」
 「本当の本当だ!」
 「本当の本当の本当に?」
 「本当の本当の・」

 「あの、お嬢さん?」

 翼の母・静が翼とユリが際限なく無限ループの会話を交わし始めたことを察知して口を(はさ)んだ。

 「え? あ、はい、なんでしょうか?」
 「えっと・・、貴方の前にいるのは私の息子なんですけどね。
たぶんですけど・・、ええ、たぶんね・・。
男色じゃぁないですよ?
たぶん。」

 たぶん? たぶんて何だ! と、翼は心の中で叫んだ。
だが、ここで口を挟むとややこしくなるので、言葉を飲み込む。

 「そ、そうなんですか?
でも、思い当たることがあるんです。」

 「え?」
 「翼くん、私とつきあっていても手をつなくのでさえ時間がかかったんです。
ましてや口づけなんて・・・。」

 「え? え? え、手をつなぐ?
え? へ?
く、口づけ?
ま、まさか翼!!!!!」

 「?・・、な、何、母さん?」
 「お、おまえこのお嬢さんに、まさかストーカーとか、いかがわしことを!」
 「へ?」
 「お嬢さん! も、申し訳ありません!」

 「え?」

 翼の母のあまりにも急展開な会話に、ユリは思わず後退る。

 「息子には警察に出頭させますので、どうか、どうか、許していただけませんか?」

 「母さん!! おれは何もしていない!
い、いや、た、確かに手はつないだし、口づけもしたけど・・。」

 「したの!」
 「え? あ・・、うん・・・。」

 「お父さん! 警察に電話して!
せめて自首させましょう!」

 「そうだな・・、まさか、お前がそのようなことを・・。
男色でない事はわかって安心できるが、このような形で証明するなんてな・・。」

 「オヤジ!! 何勘違い(かんちがい)してんだよ!
ユリさんは俺の彼女!! 結婚したいんだよ!」

 「「え?」」

 翼の両親は、結婚したいという言葉に唖然とした。
そう、口をアングリと開いたのである。

 いや待て、最初にユリと結婚したいと言ったよな、俺?
それをスルーして、今、結婚という言葉を理解したのか?
いったい何、これ?

 そう思いため息をつく翼であった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み