第77話 再会 その3

文字数 2,821文字

 翼はお奉行にユリがお世話になった御礼をして、ユリとその場を()した。
そしてお奉行の執務室から玄関へと向かう。
すると玄関でケルが待っていた。
お奉行からこの後の事はケルに任せたと言われており、どうやら奉行所からケルに迎えに来るよう連絡が入っていたようだ。

 翼はケルに話しかける。

 「ケル、いろいろと有り難う」
 「ふん、テメーなんぞに礼を言われたくねぇよ」
 「あ、そう? じゃあ、俺に御礼を言う?」
 「なんで俺がテメーに礼をいわにゃ何ねぇんだぁ! このスットコドッコイがぁ!」

 そのやりとりを聞いて、ユリが(まばた)きをし、不思議そうに問いかけた。

 「いつの間に二人は仲良くなったの?」
 「はぁ?! てやんでぇ、これが仲良く見えんのかぁ!
目でも悪いんじゃねぇかぁ、おい!」

 「ユリ、そうだぞ、これの何処が仲良く見える?
まぁ、ボッチのケルだからさぁ、友達にくらいにはなってあげてもいいとは思っているけど?」

 「あぁん?! 友達になってやってもだと?
俺に腹でお茶を()かせるつもりか?」

 「すごいなケル、そんな特技があったんだ、見せてよ」

 「てめぇなんぞに、見せる気はねぇ!!
って、そうじゃねぇだろうが!
日本語の意味もわかんねぇのか、このアンポンタンがぁ!」

 「アンポンタンだぁ!
意味ぐらいわかっている!!
腹に鉄瓶(てつびん)を乗せてお湯を()かせ、そのお湯でお茶を飲ませるってことだろう?
隠し芸だろ!
あ、違うか・・。
ええと・・そうだ、ウエルカムサービスだ!
俺はそのサービスを受けていないから、知らなかっただけさ」

 それを聞いてユリは目を細めた。

 「翼くん、それ、間違ってる」
 「え?」
 「ケルが言っているのは売り言葉に買い言葉の(たぐ)いなの。
まともに考えたら負けなの」

 「え?負け?
俺、ケルに負けたの?
この河童の小さな村で庄屋だと威張(いば)り散らしているケルに?
この唐変木(とうへんぼく)の代表選手に?」

 「だぁれが唐変木じゃ、この出刃亀(でばがめ)がぁ!」
 「なんだとぉ出刃亀はおめぇだろうが、この色ガッパ!」
 「あんだとぉ! 女房に逃げられたこのシミッタレがぁ!」
 「に、逃げられていないぞ!
それ言うなら恋人のユンの歯牙にもかけてもらえぬ発情ガッパが!」

 「な! 言う事に事()いてこの泣き虫が!
ユリに逢いたい逢いたいとめそめそないていたナメクジ野郎め!」
 「うぐぅ!! そ、それを言うか!」

 「え?! 翼君、私に逢いたくて泣いていたの!?」

 ユリは目を見開いた。

 「あ、いや、その・・、ち、違う!」
 「え? 違うの?」

 そう言うと、ユリは悲しそうに目を伏せた。
その様子を見て翼は(あせ)った。

 「あ! ち、違う、違う!」
 「違うんだ・・・」
 「そうじゃない! めそめそしていたんだよ俺は!」

 ユリはそれを聞き、ぱぁっと微笑(ほほえ)んだ。

 「うれしい!!」

 二人のこのなんともいえない会話にケルはため息を吐いた。
その時である。

 「ゴホン! ここは奉行所の玄関であるぞ!!」

 (いか)つい声で(とが)めたのは門番であった。

 「あ! これはとんだご無礼を、ひらにお許し下さい門番様」
 「ああっと、ケルが迷惑をかけてすみません」
 「翼、てめぇが迷惑かけていんだろうが!」

 「いいかげんにせぬかお前ら!
とっとと消え失せろ、仕事の邪魔(じゃま)だ」

 「へぇ、申し訳ありません! 翼、行くぞ!」
 「ああ、うん」

 「お騒がせしました、門番様」
 「いえ、ユリ殿は問題ありません」

 「門番さん! ユリは俺の奥さんだからね!」
 「?」
 
 門番の頭に、ハテナマークが立った。
キョトンとした門番が翼に問いかける。

 「ユリ殿が其方(そち)の妻だという事は知っておるが?」
 「だから人妻に手をださないでよ、美人だからと言ってさ」

 門番はあんぐりと口を開いた。

 「ちょ、ちょっと翼!
す、すみません門番さん」

 ユリは真っ赤になり、翼の手を握ると引っ張りながらその場を離れた。
あわててケルもその後を追う。
残された門番は、その場に立ち尽くし(つぶや)く。

 「いったい今のやりとりは何だったんだ?
まぁ・・よいか。
奉行所において修学旅行のような騒ぎはやめて欲しいものだ」

 門番の気持ちも分からないわけではない。
ただ彼らは修学旅行でここに来たのでは無いのである。
なぜならば、よい大人なのだ・・・、たぶん。

 ケルは二人を奉行所から異次元空間へと案内をし、そこから河童の村へと向かった。
河童の村の入り口ではユンが待っていた。
ユリがあらわれると同時にユンはユリに駆け寄って抱きつく。
ユリも抱き返した。

 「ユリ!! 無事だったのね!」
 「うん、烏妖(うよう)から逃がしてくれてありがとう、ユン」

 二人は(しばら)く抱き合った後、どちらからともなく離れた。

 「ユンは大丈夫だった? 烏妖は何もしな・」

 ユリの言葉は途中で途切れ目を見開いた。
ユンの足下を見て言葉を失ったのだ。

 「ユ・・ン・・・」
 「あははははは、ユリ、何て顔してんのさ。
私の足?
ああ、足ね、大したことないわよ、だって私は物の怪(もののけ)よ?
河童なのよ?
しばらくすると元通りに足は生えてくるんだからさ。
気にしないで」

 ユリはその言葉に涙があふれ出る。

 「ご・・、ごめん・・ユン」

 そう言ってユリは下を向いた。
涙が地面に落ちて、シミを作っていく。

 「何を(あやま)ってんのさ?」
 「だって・・・」
 「だっても、なんも、私が気にしていないんだよ?」
 「・・・・・」
 「それにさ、奉行所から知らせがあってさ、笑っちゃったよ。
烏妖(うよう)のヤツ、消されたんだってね。
いいきみさ。
せいせいしたよ。
うん、気分爽快(そうかい)!」

 「ユン・・・」
 「ほら、しけた顔しないの。
お互い無事に烏妖から逃げられて生きてんだからさ。
あの烏妖だよ?
すっごいラッキーじゃん。
しかも、その烏妖はもういないんだからさ」

 ユリは顔を上げて、ユンを見る。
涙でユンの顔がぼやけて見える。
ユンはそんなユリの隣に行くと肩を寄せ、歩き始める。
ユリはユンにされるがままに歩き始めた。

 「おぃ!ユン、どこに行きやがんだよ!」
 「私の家に決まっているでしょ?
こんな道ばたで泣いたままのユリを放っておくわけにもいかないじゃん」
 「わかった」

 そう言ってケルがついて行こうとすると・・

 「何、ついてこようとしてんのよ!」
 「え?!」
 「ユリと二人だけで話したいの、邪魔!」
 「へ?!・・・・」

 ケルは足を止めて唖然(あぜん)とした。
そんなケルを後ろから翼が肩をたたいた。

 「まぁ、女性同士で話したいこともあるだろうし、ユンがそうしたいと言ってんだからさ」

 ケルはそんな翼の言葉に、ガクリと肩を落とした。

 「翼・・・、()むぞ」
 「え?!」
 
 ケルは翼に有無を言わさず、翼の横に来ると首に腕を回して締め付け歩き始める。

 「け、ケルぅ~、ぐ、ぐるじぃ、死ぬ、死ぬってば!!」
 「うるせぇ、首を絞めてんだから苦しいに決まってるだろうが!
言っておくがな、久々にユンに逢ったんだぞ!!
なのに、なのに、なのに!!!」

 そう言いながらケルは翼を自分の家、つまり庄屋に連行したのであった。
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