第18話 村への入り口 その3

文字数 2,365文字

 人では村への入り口の穴を見つけられない事が分かった翼である。
だが物の怪ならできる事であるから疑問を感じた。

 「なあユン、物の怪なら曲がった空間を元に戻せるんでしょ?
なら入って欲しくない物の怪も曲がった空間を戻して村に入れるんじゃない?」

 「それはないわ。」
 「なぜ?」
 「だって交流のない物の怪に、自分の村の入り口の場所を教えないもの。」
 「?」
 「あ、分からないって顔ね。」

 「うん。だって物の怪なら入り口の位置なんか知らなくても、歪んだ空間を見つければいいじゃん。」

 「あのね、物の怪は空間を曲げたり戻したりはできるけど、空間のゆがみが見えるわけじゃないの!」

 「え?見えないの?」
 「そうよ。」

 「それじゃ、自分の村に通じる穴なんてどうやって見つけているんだ?
目印も何もないのに?」

 「はぁ~・・・、また説明が必要なの?
面倒臭いわね翼は・・。」

 「え、そう? ()れるな。」
 「()めてない!」
 「そう? 残念。」

 「何が残念よ! もう本当に世話がやけるわね人間て!
いいこと!物の怪はこの異空間の絶対座標がわかるの!
つまり人間でいうGPSなんちゃらとかいうようなものを物の怪は体内に持っているの!
分かった?」

 「ん?」

 「つまり自分の村に入る穴の位置がはっきりと分かるという事。
だからその座標に門を開けば、確実に穴のある位置に出られるというわけ。
そして門の直ぐ前に曲がった空間があるとわかっているわけだから、その空間を元に戻せばいいだけなの!」

 「なるほど、ユンて頭が良かったんだ、こんな事を考えるなんて・・。」
 「バカなの!」
 「へ?」
 「私が考えた訳じゃ無いの!」
 「あ、そうなんだ?」
 「あたりまえじゃない!」

 「そうか、じゃあユンはバカだったんだ。」
 「なんで私がバカなのよ!」

 「だって頭が良いと言ったら、そうじゃないと言っただろう?
つまりバカだという事になる。」

 「誰がバカだと認めた!」
 「え、認めた訳じゃないの?」
 「そうよ!」
 「そうか、まぁ、どうでもいいや。」
 「良くない!」

 ユンは怒りで息を荒くして肩をゆらす。
それを見た翼は肩をすぼめた。
やれやれのポーズである。
怒らした張本人(ちょうほんにん)が、それはないだろうとは思うのだが・・・。

 まあ何はともあれ村の入り口についてはそれなりに理解した翼であった。

 ユンはなんとか自分の怒りを収めた。

 「じゃぁ、私の村へ行くわよ。」
 「うん。」

 ユンはためらいも無く、ゆらいでいる穴に入っていった。

 「え?!」

 翼はその様子に驚いた。
穴の表面はゆらいだ(まく)で覆われている。
その膜があたかも無いかのようにすんなりと通過してユンは入って行ったのだ。

 「まさか物の怪は通れて、人間は通れないとか?・・。
いや、まさかこの膜に触れると人間は(たた)りを受けてしまうとか?・・・。
いやいやいや、ユンがそんなことをするために、俺が膜に触れるようにする訳がない。
うん、無い。
いや・・・無いよね?
・・・たぶん無いかなぁ~・・。」

 「何やってんのよ! 早く来なさいっていうの!!」

 なかなか入って来ない翼に、ユンが()れて穴から顔を出し怒鳴ってきた。

 「うわっ! び、びっくりした! 心臓が止まる! 死ぬ!」
 「バカ言ってんじゃないの、早く来なさい!」

 そう言うとまたユンは穴の中に(もど)って行った。
翼は(おそ)る恐る右手で穴の膜に触れてみた。
膜は触れた瞬間に波立つが、それだけであった。
手を突っ込むと、すんなりと膜を通り越して手がすりぬけた。

 「ほう~、ほ、ほう!!」

 翼はこの不可思議な現象に感激し、思わず変な声をだしたのである。

 「なるほどね、面白いなこの膜・・、まるで無いかのよ・」

 そこまで言いかけた時、翼は膜の中から手を掴まれて引っ張り込まれた。

 「うわっ!!」

 「何もたもたしてんの!! 行くわよ!!」
 「あ、いや、もうちょっと膜の感動を味あわせてくれ!!」
 「何を言ってんの、さぁ、とっとと行くわよ!」

 翼は有無を言わさずユンに引きずられて連行されていく。
そう、引きずられて・・。
河童(かっぱ)は怪力である。
翼など羽毛よりも軽い存在なのだ。

 翼は前のめりになり、斜め30度くらいの角度で引きずられていく。
ユンは翼の手を自分の肩くらいの位置で固定しているため顔面が地面につかずにいた。
幸いで有る。
まぁ、男として女性に引きずられて連行されているかの姿はなんともいえないのだが

 「ゆ、ユン! じ、自分で歩くから!」
 「あ、そう。」

 ユンは言うが早いか翼の手を離した。

  ドン!

 軽い音と共に翼は地面にたたき付けられる。

 「いてててててててて! 痛い!」

 まぁ、たいした位置から落とされたわけではないが、地面にたたき付けられた翼である。
翼はあぐらをかき、打ち付けた腰などをさする。

 「ユン、取り扱い注意、壊れ物なんだからさ。
宅急便なら苦情もんだよ、これ。」

 「いいの、あんたは。
壊れ物で無く、生物(なまもの)だから。」

 「なら尚更悪い! 桃だったらたいへんだぞ!」

 二人(?)は何やら分からない口論を始めたが、翼はある事に気がついた。

 「ん? 地面がある?」
 「当たり前じゃ無い、ここは村へと続く洞窟よ。」
 「洞窟?」
 「そうよ。」
 「えっと、あ、そうか、あのいた場所とは次元が違う場所で、地面がある場所かぁ・・。」

 「さぁ、とっとと立ちなさいよ、行くわよ。」
 「あ、ああ、うん。」

 翼は立ち上がり辺りを見回す。
今いる場所は暗いが、地球でいう三日月の夜の暗さだ。
真っ暗では無く、なんとなく周りが見える。
だが・・月も何もない。
なぜならここはユンが言った通り洞窟で出口など見えない洞窟のまっただ中だ。
後ろを振り返っても、先程入って来た穴など見えない。
ユンに引きずられたとはいえ、さほど距離も離れていないとうのに・・。
不思議な場所であった。
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