第28話 猫又 その4

文字数 1,910文字

 ユリが聞きたかった事。
それは奉行である猫又、徳左(とくざ)が言った能力だ。
人間の霊能力を奪ったり、霊能力に干渉(かんしょう)する能力・・。
神社庁でさえ把握していない能力だ。

 物の怪達が人間界で好き勝手をしないのは、人間の中に霊能力者がいるからだ。
その霊能力を奪える物の怪がいる。
これは神社庁にとっては由々しき事であり、人間社会にとっては恐怖そのものだ。

 おそらく徳左なら一人で人間界にいる物の怪を退治する霊能力者を簡単に全滅させる事ができる気がしてならない。
霊能力者の感だ。

 もし人間界から霊能力者がいなくなったら・・。
物の怪にとって霊能力のいない人の集団など、か弱すぎて話にならないだろう。
簡単に人間など絶滅させる事など簡単だ。
ユリはそう思い徳左を見つめた。

 徳左は自分を見つめるユリの眼差しに何かを察したようだ。

 「ん? どうした?
何か言いたい事でもあるのか?」

 「はい。」
 「なんじゃ?」

 「人の霊能力を消せるなら、なぜお奉行様は人間界に行きそうしなかったのですか?
全ての霊能力者の力を奪えば、人間は物の怪を退治できなくなります。
そうすれば人間界で物の怪は何の危険もなくなり、好き勝手にできますよね?
人は困りますが、物の怪に取っては良いことではないでしょうか?」

 「うむ・・。」

 「それに霊能力が無くなった人間は、物の怪とコミュニケーションが取れなくなります。
見る事も気配を感じる事もできないのですから、どうしようもありません。
そうなれば、人間が物の怪に何かを頼むことなどできなくなります。
逆に物の怪が人間を(たぶら)かし、誘惑する事もできません。」

 「確かにそうなるな・・。」

 「そうなるとお奉行の取り締まりの対象としている人と(くみ)して悪さをする物の怪がいなくなるという事になります。
つまり、奉行所の仕事が楽になるという事では?」

 「面白いことを考えるのう・・。」
 「は?」

 「まぁお前の聞きたい事に答える前に、逆にお前に聞こう。
人間は物の怪を全滅させうようとした事があるのか?」

 「いいえ、そのような事はないかと思います。
神社庁からも危険の無い物の怪まで退治しろとは言われておりません。
言い方が変かも知れませんが、むやみな殺生はするなという事だと思います。
そして私自身、そして私の知る限りの神社関係者の者でも、無害な物の怪は見て見ぬ振りをしています。
ただ・・。」

 「ただ?」
 「むやみに退治しようとした霊能力者が全くいないとは言い切れません。
人間には悪い人間や、恨みに(とら)われる人間がおります。
そのような人間が希にいたかもしれません。」

 「まぁ、そうであろうな。
そのような人間が希に居っても仕方ないことじゃ・・。
人間の中には悪い奴も、物の怪に恨み持つ者も中にはおろうよ。
じゃがのう・・・。
そのような人間がおれば、儂らがその人間だけを排除すればよいだけの話しじゃ。」

 「・・・。」

 「それでじゃ、お前への答えじゃがのう・・。
もし人間が物の怪を全滅させようとしたならば、全ての霊能力の力を奪っていたであろうな。」

 「・・。」

 「じゃがのう、そのような必要性を感じてはおらん。
危険な物の怪から自分らを守る権利は人間にはある。
逆に物の怪にも人間からみずらを守る権利がある。
これでよいか、答えとしては。」

 「はい・・。ありがとう御座いました。」

 そう答えたものの、ユリは新たな疑問を思った。
物の怪全体を治めている巨大な何らかの組織があるのではないかと。

 それというのも、自分が全ての物の怪を従わせたいと考える物の怪が現れても不思議はない。
それも強力な力を持った物の怪がだ。
もしそのようなモノが現れたならば、どうなるであろうか?
第二次世界大戦のヒトラーのようなモノだ。

 おそらく弱い物の怪で、それを良しとしない種族は根こそぎ絶滅されるだろう。
そして従順で強力な力をもった種族だけが生き残る。
ある意味、蠱毒(こどく)を作るかのような事が起きる気がする。
そうなれば今現在の物の怪の社会は崩壊するだろう。

 自由気ままに生きる事を()としている物の怪が、これを危惧(きぐ)しないわけがない。
しかし奉行所ではとても取り締まる事ができないのではないだろうか?
実際に奉行である徳左は、自分達より強いモノは見て見ぬ振りをすると言っているのだから。

 ならばそのようにならないようにする組織があったとしても何の不思議もない。
そして徳左が強い物の怪は見ぬ振りをすると言って笑った言っていたが、目が笑っていなかった。

 もしかしたらお奉行である徳左は、さらに上のそのような組織に関わっているのではないだろうか?
ユリはそういう気がしてならなかった。
だが、この事は聞いてはならないような気がして口を(つぐ)んだ。
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