第36話 秘密結社 その2
文字数 2,362文字
与一はこの集団の一員であることを隠し、奉行所に勤めていた。
この
猫又種族主義
の秘密結社の幹部達である。結社の旗印は、ネコの手から研ぎ澄まされた爪が飛び出ているのがモチーフとなっている。
爪は武力の象徴であり、武力こそ正義という意味らしい。
つまり結社がふるう暴力、暗殺、
猫又種族主義は、猫又こそが物の怪の中で最も優秀であると唱える集団である。
他部族は自分達より劣り支配下に置くべき存在と位置づけている。
また人間界を侵略して人間界に帝国を築こうという野望も持っていた。
つまり人間を一掃し
この集団は人間社会で置き換えると、第二次世界大戦のヒトラーの思想に似ているかもしれない。
ただこの集団は猫又の里の中では少数派だった。
そしてこの秘密結社のリーダーはヒトラーのようなカリスマ性は無い。
そのため猫又社会を革命により動かす程強大な力はない。
ただ猫又社会では無視できない危険な存在であった。
集まった面々をあえて表現するならば、幕末の武士のような存在と言えばいいのだろうか・・。
自分達の目的のためなら、猫又を含め全ての
奉行所が目をつけている結社なのである。
与一はそのような結社の構成員であった。
そんな与一が奉行所では
隠密同心は奉行所の中でも実績があり、優秀なモノがなる役職だ。
さらにお奉行に信頼されていなければなれないエリート中のエリートであった。
そんなエリートが奉行所で
与一が奉行所で捕まるなど、この集団の一員であることがバレた以外に他なかった。
奉行所から抜け出してきた猫又は、話しを続けた。
「
交流が無いかのように見せかけるためじゃ。
それは奉行所内でどちらかが捕らえられても、どちらかが残ればよいからな。」
「ああ、それは理解しておる・・。」
「じゃがな、
とはいえ普通なら若気の至りだと思う程度だと儂は思っておった。」
「うむ、儂もそう見えるかと思うが・・。」
「じゃがな、奉行所の目はごまかしきれんかったようじゃ。」
「そうか・・・奉行所内にも優秀な奴がいるものよのう・・。」
「ところでお奉行をお前はどう考えておる?」
「お奉行か?
強いらしいというのは、噂で聞いたことがある。
おおかた武芸は人並みなのに、誇張しておるのだろうよ。
奉行として家柄だけでなったと言われたくないばかりにな。」
「ん? 与一から報告はなかったのか?」
「何がだ?」
「彼奴! 報告しておけと言っておいたのにしなかったのか!」
「・・・いったい何をだ?」
「うむ・・、これは儂の失敗かもしれんな・・。
あいつも武芸者だ、お奉行の実力を認めるのがいやだったのかもしれんな・・。
お奉行は強いぞ。
へたをすると与一より腕が立つと奉行所内ではささやかれておる。」
「そうだったのか・・。
どうやらお奉行の暗殺は一筋縄ではいかなそうだな。
ところで、お奉行が先程、ボンクラのふりをしていると言っておったな?」
「ああ、そう言った。」
「ボンクラではないのか?」
「つい最近までは
猫又より狸の物の怪の方が似合いそうな程のな。」
「そんなに頭が切れて狡猾な奴だったのか?」
「ああ、そうだ。
最近お奉行の鋭さの一面が
それはちいさな切っ掛けさ。
与一では気がつかないだろうよ。
本当の切れ者とは、あのお奉行の事をいうのだろうな・・。
だから次ぎの連絡の時にお前らに報告をする予定じゃったんだがな・・。」
「・・・・。」
「そしたら今日突然に会議に出席していた与一が縄をかけられて牢屋に入れられた。
与一が捕まったとなれば、次ぎは時間を置かずに儂の番じゃろうて。
なにせあのお奉行だからな。
だから奉行所を抜け出して、逃げてきたというわけだ。」
「そうか・・、お前がそうまで思うならば仕方あるまい。
しかしそれならば与一を始末してから来るべきではないのか?」
「無理だな。牢屋の廻りに隠れて見張っているモノが居った。
おそらくお奉行の影であろうよ。
与一に近づくモノを捕らえるつもりだろうな。
捕らえた与一は、共犯を捕らえる餌としても使用されているというわけだ。
わざわざ捕まりに行く必要もあるまい?
あやつも結社の一員だ、そうは簡単には結社の事はしゃべらんだろう。
まぁ、
「そうか、なら良いが・・。
ところで、人間などなぜ奉行所に連れてこられた?
里に入り込んだなら、奉行所で捕らえても不思議ではないが・・。
だが猫又の里などに人間は入れまい?」
「ああ、そうだ。人間はどうやら異空間にいたらしい。
それをお奉行がたまたま見つけて、捕縛したようだ。」
「異空間だぁ?
どこぞの物の怪が、人間と手を組んで異空間に連れてきたのか?
それとも物の怪が閉め忘れた異空間の扉に迷い込んだのか?」
そういってリーダー格の猫又は腕を組んで少し考え込んだ。
そして、徐に口を開いた。
「いや・・・、それはあり得んな。
物の怪と手を組んだ人間なら、猫又の里になど連れてこないで異空間で始末をすればよい。
単に閉め忘れた穴から異空間に迷い込んだだけの人間なら、異空間にほっとけばすむ話しだ。
ならば、
なぜお奉行とおあろうモノが、わざわざ里に連れて来た?」
その問いかけに、猫蔵は肩をすくめた。