第57話 奉行所 その3
文字数 2,319文字
ユリが奉行所の客人扱 いとなり、奉行所での暮らしにユリがなじみ始めた頃の話しである。
奉行所で、ユリはいつの間にか奉行所の雑用を行っていた。
それというのも、居候 では居心地 が悪いので雑用をかってでたからだ。
当初、奉行所内の女中はユリが雑用を手伝うのを全力で止めようとした。
それというのも奉行直々 に客人扱いせよというお達しがあったからである。
だがいつの間にか女中達と仲良くなったユリは、なんだかんだと女中を丸め込んだ。
そしてさも当然というかのように雑用をするようになったのである。
奉行はというと、そんなユリの様子 を伺 いながら何かとユリに気をかけていた。
また同心 は最初の頃はユリを警戒していたが、ユリの人柄 に少しずつ絆 されて心を開いていった。
そのための同心の中には手が空いたときに奉行所内や庭、さらにはお奉行に断りを入れて近隣の村を案内するモノもいた。
やがて異次元空間にも連れて行くようになり、奉行所としてはユリがやりたい事を好きなようにさせていた。
ただし、ユリがどこに居ても分かるように、特別な鈴を首につけさせた。
そう、首輪である。
ネコに鈴ならぬ、ユリに鈴だ。
ただし、この鈴は音を出さない。
もし鳴ったらとてもではないが、五月蠅く てユリは生活が大変な事になったであろう。
ただこの鈴は人に聞こえぬ特別な音を出しており、猫又 はこれによりユリがどこに居ても場所を特定できていた。
それが例え異次元空間にいたとしてもである。
とはいえ無限空間である異次元空間では当然検知できる限度はある。
つまりこの鈴は猫又が開発したGPSである。
これをユリが付けることで、ユリが猫又の里のどこをほっつき歩こうが、異次元空間で散歩しようが居場所が特定できるため許されたのである。
ただし、異次元空間では決して走らない、ジャンプをしないようにユリは厳重に注意されていた。
もしそのような事をしたら、異次元空間を回転しながら無限の彼方 に飛んでいくことになる。
一度それを烏妖 によって図 らずも体験したユリだ。
二度とそのようになるのはゴメンだと思い、その注意をユリは厳守していた。
異次元空間で彷徨 っていたユリをお奉行が見つけたのは、たまたま異次元空間の特異点にユリが来たからである。
特異点とは異次元空間を彷徨っていたものが加速度が0となり停止する場所だ。
このような場所が異次元空間において所々存在している。
とはいえ無限空間である異次元空間では滅多に遭遇できる場所ではない。
そういう点ではユリは運が良いと言えるだろう。
いや、強運かもしれない。
それというのも異次元空間にある奉行所の秘密の通路が、たままた特異点近くにあったからだ。
そこにたまたま奉行が通りかかるタイミングで、ユリが特異点を通り止まった。
まさに奇跡という他はない。
ともかくこの鈴のお陰で異次元空間でも猫又の里の入り口から遠く離れない限り、奉行所の誰かが必ず迎えにきてくれるのでユリは安心して散歩できた。
鈴さまさまである。
ユリが異次元空間を散歩するのは、異次元空間を知っておくためであった。
いつ猫又の里を追い出されてもいいように・・・。
そのため異次元空間の特性について、それとなく奉行所の同心らから情報を集め実体験していたのである。
一方、奉行所はユリを襲ったという烏妖の消息を追っていた。
そしてどうやらこの異次元空間や物の怪の里には潜 んで居ないという結論に至った。
そのため人間界に密偵を放って、該当する烏妖を探索していたのである。
---
人間界で奉行所の密偵の一人が、あるとき物の怪達の噂話を小耳にはさんだ。
それは妖狼 が定期的に物の怪を集めて集会をしているというのである。
物の怪は基本的に自由気ままで、集会などはしない。
それも異種族と。
それなのに異種族の物の怪が、妖狼のもとに集まる。
これはどう考えても異常な事だ。
密偵はその集会の日に、森陰 に潜 んで様子を伺 うことにしたのである。
すると確かに物の怪達が集い始め、妖狼も姿を現した。
どうやら妖狼は人間、それも退治屋を捜しているようだ。
それなのに捜している退治屋の素性 が分かっていないらしい。
かわりにその退治屋の番 いは分かっており、それを捜して捕らえ、その退治屋を誘き出す事を妖狼は考えていることが集会での内容や、集まった物の怪達の雑談で分かった。
やがて集会が終わり、妖狼が姿を消し、集まった物の怪が三々五々に家路につこうとしたとき密偵は森陰から抜けだし雑談をしている二人に近づいた。
そしてあたかもこの場所に偶然来たかのような振りをして話しかける。
「皆さん、こんなところで何をしているんです?」
話しかけられた雀 の物の怪は、警戒を露わ にした。
猫又は人間界に住んでいるものもいるにはいるが、姿を見せるのは人里がほとんどだ。
こんな山中に来るなど怪しいにも程がある。
「猫又 とは珍しいな、お前こそこんな所に何しに来たんだ?」
猫又はその問いに自分の頬 ヒゲを左手でしごきながら、平然と答える。
「な~に、たまには人間界のマタタビもいいかなと異次元空間の猫又の里から来てみたんだ。
深山 にあるマタタビが極上だと聞いていたから、どうせならそれを手に入れようと思ってね」
「深山にあるマタタビなぞ、里の近くのマタタビと大差などないぞ。
お前、そんな事を何処で聞いて来たんだ?」
「いや友人にさ、そう言われたんだよ。
もしかして、彼奴 、俺をからかったのか?」
「お前、欺 されてここまで来たのか?!」
「あ~・・・、うん、そうかもな?」
「お前・・、バカ?」
「バカ? あ~、まぁ、欺されやすいのは確かだな」
その言葉に物の怪の二人は可哀想なモノを見る眼差しを密偵に送った。
奉行所で、ユリはいつの間にか奉行所の雑用を行っていた。
それというのも、
当初、奉行所内の女中はユリが雑用を手伝うのを全力で止めようとした。
それというのも奉行
だがいつの間にか女中達と仲良くなったユリは、なんだかんだと女中を丸め込んだ。
そしてさも当然というかのように雑用をするようになったのである。
奉行はというと、そんなユリの
また
そのための同心の中には手が空いたときに奉行所内や庭、さらにはお奉行に断りを入れて近隣の村を案内するモノもいた。
やがて異次元空間にも連れて行くようになり、奉行所としてはユリがやりたい事を好きなようにさせていた。
ただし、ユリがどこに居ても分かるように、特別な鈴を首につけさせた。
そう、首輪である。
ネコに鈴ならぬ、ユリに鈴だ。
ただし、この鈴は音を出さない。
もし鳴ったらとてもではないが、
ただこの鈴は人に聞こえぬ特別な音を出しており、
それが例え異次元空間にいたとしてもである。
とはいえ無限空間である異次元空間では当然検知できる限度はある。
つまりこの鈴は猫又が開発したGPSである。
これをユリが付けることで、ユリが猫又の里のどこをほっつき歩こうが、異次元空間で散歩しようが居場所が特定できるため許されたのである。
ただし、異次元空間では決して走らない、ジャンプをしないようにユリは厳重に注意されていた。
もしそのような事をしたら、異次元空間を回転しながら無限の
一度それを
二度とそのようになるのはゴメンだと思い、その注意をユリは厳守していた。
異次元空間で
特異点とは異次元空間を彷徨っていたものが加速度が0となり停止する場所だ。
このような場所が異次元空間において所々存在している。
とはいえ無限空間である異次元空間では滅多に遭遇できる場所ではない。
そういう点ではユリは運が良いと言えるだろう。
いや、強運かもしれない。
それというのも異次元空間にある奉行所の秘密の通路が、たままた特異点近くにあったからだ。
そこにたまたま奉行が通りかかるタイミングで、ユリが特異点を通り止まった。
まさに奇跡という他はない。
ともかくこの鈴のお陰で異次元空間でも猫又の里の入り口から遠く離れない限り、奉行所の誰かが必ず迎えにきてくれるのでユリは安心して散歩できた。
鈴さまさまである。
ユリが異次元空間を散歩するのは、異次元空間を知っておくためであった。
いつ猫又の里を追い出されてもいいように・・・。
そのため異次元空間の特性について、それとなく奉行所の同心らから情報を集め実体験していたのである。
一方、奉行所はユリを襲ったという烏妖の消息を追っていた。
そしてどうやらこの異次元空間や物の怪の里には
そのため人間界に密偵を放って、該当する烏妖を探索していたのである。
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人間界で奉行所の密偵の一人が、あるとき物の怪達の噂話を小耳にはさんだ。
それは
物の怪は基本的に自由気ままで、集会などはしない。
それも異種族と。
それなのに異種族の物の怪が、妖狼のもとに集まる。
これはどう考えても異常な事だ。
密偵はその集会の日に、
すると確かに物の怪達が集い始め、妖狼も姿を現した。
どうやら妖狼は人間、それも退治屋を捜しているようだ。
それなのに捜している退治屋の
かわりにその退治屋の
やがて集会が終わり、妖狼が姿を消し、集まった物の怪が三々五々に家路につこうとしたとき密偵は森陰から抜けだし雑談をしている二人に近づいた。
そしてあたかもこの場所に偶然来たかのような振りをして話しかける。
「皆さん、こんなところで何をしているんです?」
話しかけられた
猫又は人間界に住んでいるものもいるにはいるが、姿を見せるのは人里がほとんどだ。
こんな山中に来るなど怪しいにも程がある。
「
猫又はその問いに自分の
「な~に、たまには人間界のマタタビもいいかなと異次元空間の猫又の里から来てみたんだ。
「深山にあるマタタビなぞ、里の近くのマタタビと大差などないぞ。
お前、そんな事を何処で聞いて来たんだ?」
「いや友人にさ、そう言われたんだよ。
もしかして、
「お前、
「あ~・・・、うん、そうかもな?」
「お前・・、バカ?」
「バカ? あ~、まぁ、欺されやすいのは確かだな」
その言葉に物の怪の二人は可哀想なモノを見る眼差しを密偵に送った。