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文字数 3,418文字
荒野に一人取り残されて以降、テスが他人の姿を目にしたのは、丸一日歩き続けて眠り、また目を覚ましてからのことでした。
木立の向こうに、鋭い三角屋根の教会堂を見つけたのです。
教会堂の近くには、盛り土の上の柵に囲まれた、小さな村がありました……。
村は打ち捨てられて久しいようでした。
聞こえてくる音は、柵と柵の間、家と家の間を吹き抜ける風の音、そして、どこかで開いたままになっている戸板が風にあおられバタン、ギィ、バタン、と壁にぶつかる音ばかり。
人が生活している音も臭いもありません。
村と教会堂の間も木立で遮られています。
足音をたてぬよう細心の注意を払いながら、テスは声をたどって木々の合間を縫い歩きました。
少し進むと、影が薄れ、木々の向こうが見渡せるようになりました。
そこは教会堂の裏手の墓地でした。
修道者の衣に身を包んだ中年の女が、手にした本を読み上げながら墓の間をゆっくり歩いています。
『――そういうことを行っているのは、もはやわたしではなく、わたしのうちに住んでいる罪なのです。
わたしは自分のうちに、すなわち、わたしの肉のうちに、善が住んでいないことを知っています。
善いことをしようという意志はありますが、行いが伴いません。
わたしは自分が望む善いことをせず、望まない悪いことをしているのです』
女はパタンと音を立てて本を閉じました。
そして、聖職者にふさわしい、柔和で慈愛に満ち溢れた笑みを浮かべ、撫でるように墓の一つに手を置き、こう締めくくりました。
女は前を向き、木立から出てきたテスを見ました。
テスが二、三歩歩み寄っても、微笑んだまま動きません。
テスは意を決してその女のすぐ前まで歩いていきました。
テスは大気の力を借りて跳躍し、裏口の戸の庇の上でくるりと回転し、そこに着地しました。
裏の戸が開き、痩せ細った老人が出てきました。老人は
それから、老人の頭をまた上げさせて、腕を動かし、強引に左右の様子を見させました。
実に優しそうに言葉を続けます。
老人は血まみれの顔で、よろめき、苦しげに
裏口の戸が閉まると、テスは
アルカディエーラは完璧な笑顔で、テスが下りてくるのを待っていました。
神は、全ての人間を価値ある尊いものとして作りました。神に失敗作はあり得ないのですから。
ところが、自分自身を愛さず、そして全ての他人を愛さぬとなると、それは神に失敗作があると言っていることになりませんか?
誰しもが、そして己もまた、神の無数の側面の一つ、神の天性の一つ、神の一欠け、神の一しずくであるのですから、誰もが己自身を認め、愛さなければなりません。
己の内の神を愛することによって、神に己を愛させなければならないのです。
そういうわけで、神を愛し尊ぶのなら、まず自分で自分をよくする努力をしなければなりません。
忌まわしい、嫌な影が、二人の上を飛びました。
テスの肌を鳥肌が覆います。
真っ黒い、翼あるものが、
それは鳥に見えますが、正しい鳥ではありません。
気配でわかります。
あれは、その使いです。
テスは急いで墓地から走り去り、小さな教会堂をぐるりと半周してその玄関口に来ました。
教会堂の前庭からは、丘の下を一望できました。
偽物の鳥が、丘の下の一台のジープへと向かっていき、消えました。
木立の向こうの低地にいる彼らからは、まだテスの姿は見えていないはずです。
それでも確かにテスがいることを、鳥越しの視界によって知っています。
足取りに迷いがありません。
言葉つかいである彼らなら、その位置からでもテスへの攻撃を開始できるはずです。
アルカディエーラがいるから
アルカディエーラは丘を駆け上ってくる男たちの姿を見据えます。