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文字数 1,088文字
テスは歩きます。
キシャ、『亡国記』、その光が飛び去った方向へ、テスは歩きます。
歩き続けます。
何度か、鳥の羽音めいた音を頭上に聞くことがありました。
その
でも、何度めか空を見上げたときには、頬をかすめる柔らかい羽根を感じもしたのです。
にもかかわらず、衣服と
テスは目を閉じます。
息を止め、思考を止めます。
意識を大気に拡散し、気配をよく探ります。
空が急速に暗くなるのが、目を閉じていてもわかりました。
そして左手側に、何か大きなものの気配を感じました。
目を開けると、僅かな間に空は恨みがましいほど黒ずんだ厚い雲に覆われていました。
雲の薄いところは、空の光を吸い込み朱色に染まっています。
その薄墨色と朱色のまだら模様の下を、鳥の影が十ばかり、群れ飛んでいきました。
翔くものはテスの左手側、大きな気配のほうに去ります。
その行く先を目で追えば……。
それほど離れてはいません。五分も歩けばたどり着きそうです。
城壁の向こうには何も見えません。
不思議なことには慣れてしまったテスも、これをどのように解釈すべきかわかりません。
テスは壁へと歩き始めました。
土の上には小鳥たちの小さな足跡が残されています。
壁との距離が縮まり、その石組みと、石の継ぎ目、上部の歩廊の小窓が見えるようになりました。
城壁の根に生える雑草が見える距離まで来て、テスは走り出しました。
助走をつけ、それから全力で走ります。
土を蹴って飛び上がり、左足で大気の壁を蹴ります。
体が大気と同調し、ふわりと高く浮きます。
空中で体を丸め、くるりと回転。抵抗を極力殺し、落下へと転じる直前、再び大気の足場を作り、右足でそれを蹴ります。