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文字数 2,447文字
空の雲が伸ばされて、黒い太陽を隠します。
テスはとうに自分の力を空に向けるのをやめていました。
まだらに染まる雲の間を光の帯が走りました。
テスは確信を得て大気をまとい、大きく後ろへ飛びました。
耳をつんざく轟音と共に、紫色の雷が天から降りて祭壇の前の地面を打ちました。
間一髪。
祭壇の後ろの巨石の上に片膝をついて飛び乗ったテスは、ティルカの叫び声を聞きました。
ティルカの叫びをかき消して、雷が巨石を打ちました。
二発、三発、四発と、雷は立て続けに落ちてきます。
テスは空に意識を集中し、雷が落ちる直前の、言葉の力の濃淡と反射神経だけを頼りに野外礼拝所の奥へと走りました。
ヤトもテスを見失ってはいません。
ヤトが右手を上げます。新しい力がテスの頭上に満ちました。
テスは右手を胸に当て、首にかけた陶片の護符を、服越しに握りしめました。
直後、石つぶてのような物が空から降り注ぎます。
テスは大気の円柱を建ててその中心に立ち、旋風を起こしました。
風の鎧が降り注ぐものを砕き、跳ねのけていきます。
その透明な雹はナイフと同じ鋭さを持っていました。
雹のナイフは風の刃に粉砕されて、きらめきながら散っていきます。テスの風に砕かれなかった雹は、大きな音を立ててスレートを砕き、屋根に穴を開けました。
テスは屋根を走り、隣の家の屋根に跳び移りました。
テスがいた家の屋根を打ち据えた雷は、蛇のように幾筋にも分かれて空中を這い、テスを追います。
その最初の一つが体に触れる前に、テスは腰の後ろの銃を抜き、両手で構えて撃ちました。
銃弾が礼拝所に立っているヤトの
ヤトが驚いてティルカと共に後ずさり、集中が切れました。同時に雷の蛇も消えました。
風の力がテスの体から噴きだして、全包囲へと広がりました。
テスの足許から円形に、砂塵が散らされていきます。
風は屋根の上から礼拝所におり、ヤトとティルカに向かって砂を散らして威嚇します。
風をいっそう強めます。
風は砂で濁り、ヤトとティルカの姿をおぼろな影に変えます。
体を下方向に引っ張る力を感じました。
テスは直感を頼りに屋根を蹴り、真上に飛び上がりました。
直後、屋根が崩落。
これ以上留まっていれば、街じゅうの言葉つかいを呼び寄せることになるでしょう。
そして、恐らくはティルカ以外の全員がテスを殺そうとするでしょう。
多勢に無勢です。
そして、殺されるつもりはありません。
地面は最初に崩れた家を中心に崩壊し続け、テスの足場を奪っていきます。
テスは空中に留まり、両手で銃を構えました。
そして、ヤトの後ろの人影の頭に銃口を向け、引き
言葉つかいの力を失って、虚無に変じた地面がたちまち修復されていきます。
戻ってきた砂地に片膝立ちの姿勢で着地し、舞い上がったままの砂に目を細めながら、テスは続けてヤトを撃ちました。
ヤトは言葉もなく地面に突っ伏しました。
ヤトが死に、結界は解けたはずです。
テスは立ち上がりながら、ヤトの後ろに倒れている言葉つかいの姿を確かめました。
テスはティルカの目をちらりと見ました。
銃を収め、背を向けます。
テスは慌てて振り向きます。
まず目に入ったのは、前のめりに体を屈めるティルカの姿。
ついで、苦しげな音を立てて口から吐き出される血。
ティルカの背から腹にかけて、槍の穂先が貫通しています。
太陽のように黒い槍が。
それを聞き届けたティルカの体が、膝から地へと崩れ落ちました。
ヤトとリーユーの血を吸った砂の中に倒れ、それきり二度と動きません。
そして、その女、アルネカが、礼拝所の入り口に現れました。
盲目の言葉つかいが……。