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文字数 2,410文字
テスは闇を這い、やがて光を見ました。
朱色の光に染まる出口から慎重に外を伺うと、そこは街の中枢を囲む城門の、内側であるようでした。
穴の外側に身を投げて、大気の足場を蹴って飛び上がり、城壁の上に着地。
今度は城壁の外側へと身を投げて、空中でくるりと体を丸くします。
通りの真上で静止して、音もなく舞い降りました。
そのまま宿に駆け戻り、音を立てずに二階に駆け上がります。
ベッドの下に隠した武器、物理銃と一対の半月刀を引きずり出しました。
腰にベルトを巻き付け、腰の後ろに銃を、左右の腰に一振りずつ半月刀を装着。
最後にマントを羽織ります。
階段を慌ただしく駆け上がる足音を聞いたのはそのときでした。
テスは部屋の窓を、急いで、しかし静かに開け、窓枠を蹴りました。
風をまとう
テスは振り向かず、屋根屋根の上を渡り走り出しました。
間もなく背後で警鐘が鳴り響きました。
街の中枢から鳴り響く重々しい鐘の音に呼応して、甲高い早鐘が方々で鳴り響きます。
追跡が始まったのです。
テスは街を囲む城壁へと近付いていきました。
中枢から遠のくにつれ、街が荒れていきます。
ついぞ荒れた空き家が建ち並ぶばかりの区画に来ました。
誰もいない家々の間に、打ち捨てられた野外礼拝所を見つけました。
宿の正面にあった礼拝所と同じく巨石を組んで作られたものですが、こちらは荒れ果てて、祭壇を蟻が這い、地面は
片隅には掃除場がありますが、
テスは廃墟の屋根を下り、巨石の間に身を潜ませました。枯れた
それらの蔓の下に、何か文字が彫られていました。
テスは棘に気をつけながら、茨の蔓を掻き分け、それを読みました。
ヤトとティルカが十分に遠ざかり、動きだそうとしたテスは、風の唸りに身を
足音もなく、
気配は、テスが背を預ける巨石の向こう、祭壇の前に留まります。
テスは突然、正体を悟りました。
死者です。
教会は家族を愛せよと説きます。しかし私は遠く離れた家族を愛せません。
なので、私は父母兄弟を、既に死んだと皆に語りました。
そのことを、神よ、あなたのほかに誰にも打ち明けられなかった。
打ち明ければ、教会は私を相応しくない存在と
呼吸の音は聞こえません。
代わりに風が、巨石の間を吹き抜けてすすり泣きます。
そのまま、もう話そうとはしません。
テスは口を開き、そっと尋ねました。
いいや……。
神はお答えにならなかった。
気配が急に消えました。
テスは両膝をついた姿勢のまま、祭壇の前の様子を窺いました。
無人です。
鳥の幻影が曇天の下を過ぎ去り、そのときテスは、この街に本当に鳥がいないことを理解しました。
テスは立ち上がり、祭壇の前に出ていきました。
テスには神を感じられません。
死者が行くべき場所も、その道筋も、この街には見つけられません。
目を閉ざします。
様々な濃淡の灰色と朱色の雲を視界から閉め出して、赤く晴れた空を思います。
左手を高く上げ、人差し指にその赤さを集めます。
光を感じました。
鳥の行く先、死者の魂の行く先を示すもの。
雲が丸く割れています。その割れ目が大きくなっていきます。
心臓が収縮し、背筋に悪寒が走ります。顔がカッと熱くなります。
小さな物が揺れ動く、カタカタという軽い音がしました。
テスは目を空から音の発生源、野外礼拝所の掃除場へと向けました。
恐怖の波動がテスを打ちました。
街のほうから混乱した騒ぎが聞こえ、自分のもとに駆けつけてくる足音を聞いたときにはもう、身を隠す余裕はありませんでした。
ティルカ、そしてヤト。
その叫びと足音をかき消して、アルネカの声が、まるで間近にいるかのように精神を打ちました。