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文字数 2,087文字
テスは人目を忍んで死者の町を出ていきました。
町の外、雲が敷き詰められた黄色い空を渡る鳥はなく、赤土の荒野で餌をついばむ鳥もいません。
道らしきものが地平線まで延びていました。
黒い山の裾野に来て、テスは足を止めました。
木の柵で囲まれた敷地があり、そこに石版が散乱していました。敷地の入り口には石碑が建っています。
その石版を注視したテスは……。
……すぐに、それが墓石であることに気付きました。
どうやらここは掘り返された墓のようです。
土の色が敷地の外の土の色と変わりないので、決してつい最近の出来事ではないことがわかります。
「消えてしまいたいのか?」と聞かれ、「もう少し生きる」、と答えたあの少女は。
かつて。
それが、文字を刻みつけた人物の妻なのか、恋人なのか、娘なのかはわかりません。
ですが、墓を掘り起こした男の目当てはそれだったのでしょう。
そして、その復活をかけて、死者を蘇らせたのでしょう。
きっと、その『悪い言葉つかい』は。
複数人の足音が近付いてきて、取り囲むようにテスの後ろに立ちました。
どういう人たちで、何の用件なのかはわかっていました。
テスはゆっくり振り向きます。
四人目の人物が彼らの後ろから歩いてきて、男たちはその人物のために道を開けました。
その人物を目の当たりにし、テスは呼吸を止めて体を
船で出会った、あの痩せぎすの、赤毛の女でした。
今は『亡国記』を持っていません。
この世界における銃を抜きました。
言葉を撃ち出すカートリッジ式の銃で、テスが持つ物理銃より大型です。
殺気で空気をぴりぴりさせながら女が尋ねました。
テスが死者の蘇生を企んでいると誤解しているのかもしれません。
ネサルというのが彼女の本当の名前みたいです。
ネサルが銃口を上げましたが、それが自分を狙っていないことにテスはすぐ気付きました。
恨みのこもった感情の塊が、テスから見て左端に立つ男の耳の横と、そしてテスの左横を
悲鳴を上げて尻餅をつく男をネサルが蹴飛ばしました。
三人の男たちは前のめりになって逃げていきました。
ネサルは銃口を下げました。
ホルスターから新しいカートリッジを出し、今銃に付いているものと手際よく付け替えます。
そして病的な上機嫌さで鼻歌を歌いはじめました。
銃口がテスを向きました。
テスは真横に倒れこみ、地面を転がって射線を避けます。
遅れてネサルが叫び、引き金を引きました。