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文字数 2,536文字
状況がよくわからないのですが、明るい部屋の、清潔なベッドに寝かされていることを把握しました。
鳥の声を聞いたと思うのですが……。
夕日に染まった白いカーテンの向こうから、キジバトの声が聞こえてくるではありませんか。
ベッドから跳ね起きようとしたテスは、急に割れるような頭痛に襲われ、もう一度ベッドに仰向けに倒れこみました。
それでも鳥の声が消えることはありません。
あれほど探し求めた声。この世界から消えたと思っていた生き物の声。
夢ではなく、幻聴でもありません。
熱が引いたかどうかよくわかりませんが、いくらか起き上がれるようなので、起きて靴を履きました。
体はひどく弱っていました。
足は震え、カーテンがかかる窓に目をやったとき、音を立てて転びました。
すぐに廊下を誰かが駆けてきて、部屋の戸を開け放ちました。
アエリエが入ってきます。
アエリエは、咎めようとも、何をしようとしていたのかを問いつめようともしませんでした。
ただ傍らに跪き、起きあがろうとするテスの背中に手を当てました。
アエリエはテスの腕を取り、自分の肩に回しました。
彼女はテスが廊下に出るのを助け、その後も肩を貸して歩かせました。
突き当たりの戸から外に出ます。
この建物は何かの施設のようです。外は草地でした。
赤い空を見ながら、草の上を歩きます。
丘の上に
アエリエは坂を上り、テスを木の下に連れていきました。
丘の下には、小さな村が見下ろせます。
村の外れの小さな池に、白い
テスは驚きに打たれ、もはや何も考えられず、目を大きく見開いて、遠くの白い
それは、テスがこの世界で初めて目にする、生きている鳥でした。
砂の打たれた通りを鶏が歩いています。
屋根から屋根へ小鳥が飛んでいます。
それより大きな鳥は、村の上の空を飛び交います。
さらにはテスとアエリエの頭上に枝を広げる楡の木からさえも、鳥の声がするではありませんか。
テスにはわかりません。
何故鳥が見えるようになったのか?
あるいは、今まで何故見えなかったのか……。
もう一つ、不思議なことがあります。
熱が引いてはじめてわかったのですが、絶えず体を
それがどういうことなのか、テスにはわかりません。
テスが草地を駆けます。
左手が右の腰に伸び、半月刀を抜き放ちます。
続けて右手が、左の腰の半月刀を抜きます。
右足を軸にステップを踏み、そして、半月刀が斜めに、真横に、縦に、振り下ろされ、または振り上げられます。
赤く染まる世界で、テスは見えない敵を切り刻みます。
半月刀の柄頭をぶつけ、ねじり、連結器を組み合わせ、二枚刃のブーメランにし、腰をよじって投げ放ちます。
ブーメランは赤い空に吸い込まれ、小さな黒い点になりました。
それが再び大きくなりながら、テスのもとに戻ってきます。
大気を操り、戻ってきた武器が自分自身を傷つけぬよう、体の周りを周回させます。
いつからいたのか、宿を借りる農場の倉庫の壁に背を預け、ミスリルが声をかけてきました。
テスは息を切らしていました。二本の半月刀の連結器を外し、鞘に収め、腕で額の汗を拭います。
倉庫から少し離れた位置に立つ、
テスもまた気がついたのです。
……自分も、ミスリルとアエリエのことをきっと知っていると。
まだ思い出せるのだと。
決めなければならなりません。できる限り早く。
この記憶は欲しいけど、あの記憶はいらない、ということは許されないでしょう。
すべてを手に入れるか、すべてを失うかです。