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文字数 1,211文字

見えてきた村には、よかった、人間の形をした人間がたくさんいるようです。
でも、どこか騒然としています。

村の入り口には大人たちが集まっています。

男の一人が舗道を歩いてくるテスを見て、村の人たちに向かって大声を出しました。

アミルダ! おい、あいつか!?

村を囲む柵には、舗道を挟みこむように二本の柱が立っていて、それが門の代わりでした。テスは門をくぐった所で立ち止まりました。

半円形に、村人たちがテスを囲みます。

敵意に満ちた目です。

人だかりが二つに割れ、キシャだった少女が小走りでやって来ました。

どうやらアミルダというのが本当の名みたいです。

あいつよ、人さらい!

人さらいなんかじゃない。

沼のほとりで倒れてたから、保護したんだ。

嘘つきやがるぜ、ふてぶてしい。

アミルダは二ヶ月前に姿を消した。あの馬鹿でかい化生がいて、二ヶ月も沼のほとりで生きてられるわけないだろう。

沼の反対側で見つけたんだ。反対側の町。

見え透いた嘘つくんじゃねぇよ。

あそこには滅んだ村しかない。そんな所にこいつが一人でいたって?

事情は俺も知らない。
でも、俺のことが気に入らないなら出ていく。
待てよ。何さっさと逃げようとしてやがる!
テスを取り囲む半円が(せば)まり、両側から男たちの腕が伸びてきました。

取り押さえられる前に、テスは地面を蹴り、風の力を得て飛び上がりました。

門の上に渡された横木に着地して見下ろすと、門の前に集まる三十人ほどの男女が、あんぐりと口を開けてテスを見上げます。

横木の上から見れば、そこは本当に小さな、小さな村でした。
人さらいは、さらった相手を返しにきたりしない。

取りあえずの安全を確保したテスは、もう一度説得を試みましたが、誰も聞きやしません。

村人たちは、その件についてはもはやどうでもいいようです。

……お前、言葉つかいか?
ああ。
たちまち驚愕に満ちたざわめきが湧きたちます。

な、なあ!?

あの……外の化生はどうにかできるか??

あれは大きすぎる。俺一人ではどうにもならない。

別の言葉つかいが、もっとたくさん()る。

港町から言葉つかいが結界の修復に来るの!
……いつ?

明日よ。

でも作業してもらうところは結界が破れてて危険なの。

テスは察してしまいました――つまり(おとり)になれということです。

だからその、手伝ってほしいんだ。

さっきは悪かった! 俺たちは本当に困ってるんだよ!

…………。
……俺を拘束したり、武器を取り上げたりしないか?
しない!
しないわ!
約束する!

テスは横木から飛び降りました。
アミルダだけが、面白くなさそうにまだテスを睨んでいました。

テスは石造りの小屋に案内されました。

その小屋の中には、とても出入りなどできそうにない小さな窓が一つだけありました。

テスが中に入ると、すぐに外から鍵がかけられて、戸口に鎖の巻かれる音がし始めました。

なるほど……
確かにテスは手足を拘束されず、武器も取り上げられませんでした。
……なるほど。
―つづく―
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