8-8

文字数 1,122文字

枯れ果てた茨の中で、テスは呆然と瞬きを繰り返しました。

体はずたずたに傷つき、棘のついた茨の蔓が赤く染まっています。

倒れたまま、長く目を閉ざしたり、(あらが)うように開いたりを繰り返したすえに、口を開きました。

キシャ、大丈夫か?

返事はありません。

テスは左手に絡みつく、ゆるんだ茨を振り払うと、首を庇っていた左腕をゆっくり腰まで下ろしていきました。

そして、腰の半月刀を抜き、周囲の茨を切っていきます。

燦々(さんさん)と輝く黒い太陽が、赤い空からテスを見下ろしていました。

両手と上半身、そして腰に絡む茨を切り落とし、起き上がったテスは、まず右手側、指に触れた土の正体を確かめました。
真っ黒い、大きな人形のような物が倒れていました。

それが、テスに触れられることによって崩れたのです。

ニハイ――。

彼女に憑依していたキシャ、『亡国記』は、姿を消していました。

それだけを確かめると、テスはニハイの残骸を見るのをやめました。

足に絡む茨を切り、巨石から飛び降りました。

力が入らず、着地の際に手と膝をついてしまいました。

荒れた野外礼拝所の、ヤトとティルカ、そしてリーユーが倒れていた場所には、人間の黒い残骸が転がっているだけでした。

死んだ色彩と輪郭です。

(ごめんな、ティルカ……リ―ユー……ヤト…………)
死者の嘆きを含み、風が砂を散らして吹きます。
街は荒れ、ここに住んでいた人は、街を支えるアルネカと共に消えてしまいました。
(それで……)
(彼らはどこに行ったんだろう……彼らの祈りはどこに届いたんだろう……)

彼らは神の救いを求めていました。

彼らは自分の罪と無力を知っていました。

目は神を探し求め、心は神に開かれていました。

テスは目を閉ざします。

心を開きます。

両腕を広げて風を受け、嘆く風を鳥の形に作り変えます。

何十という鳥の羽ばたきが、テスの頬に触れました。

目を開けたテスは、黒い鳥の影が空高くに舞い上がるのを見ました。

空を仰ぎます。

鳥たちを追って顎と目線を上げていき――

――黒い太陽を見ました。
………………!!!

この世界でたった一つの忌むべき魂の行き場所、すなわち黒い太陽を恐れて、鳥たちが悲鳴のように叫びます。

飛ぶ鳥の三角形の隊列の、その先頭から体が崩れて黒い水となり、地に、野外礼拝所に降り注ぎます。

鳥たちは跡形もなく溶け、一直線に落ちてきて、野外礼拝所の掃除場で水しぶきをあげました。

鳥だった黒い水は、砂の上を流れ、排水口に吸い込まれていきます。
テスは膝をつきます。両手で顔を覆います。
全ての鳥が跡形もなく失せ、黒い水も排水口に消えた後には、テスの両目から流れ落ち、両手の間から滴る水が砂を濡らしました。
天の黒い太陽が、それを乾かしていきます。
―つづく―
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