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文字数 1,122文字
枯れ果てた茨の中で、テスは呆然と瞬きを繰り返しました。
体はずたずたに傷つき、棘のついた茨の蔓が赤く染まっています。
倒れたまま、長く目を閉ざしたり、
返事はありません。
テスは左手に絡みつく、ゆるんだ茨を振り払うと、首を庇っていた左腕をゆっくり腰まで下ろしていきました。
そして、腰の半月刀を抜き、周囲の茨を切っていきます。
両手と上半身、そして腰に絡む茨を切り落とし、起き上がったテスは、まず右手側、指に触れた土の正体を確かめました。
真っ黒い、大きな人形のような物が倒れていました。
それが、テスに触れられることによって崩れたのです。
彼女に憑依していたキシャ、『亡国記』は、姿を消していました。
それだけを確かめると、テスはニハイの残骸を見るのをやめました。
足に絡む茨を切り、巨石から飛び降りました。
力が入らず、着地の際に手と膝をついてしまいました。
荒れた野外礼拝所の、ヤトとティルカ、そしてリーユーが倒れていた場所には、人間の黒い残骸が転がっているだけでした。
死んだ色彩と輪郭です。
彼らは神の救いを求めていました。
彼らは自分の罪と無力を知っていました。
目は神を探し求め、心は神に開かれていました。
テスは目を閉ざします。
心を開きます。
両腕を広げて風を受け、嘆く風を鳥の形に作り変えます。
何十という鳥の羽ばたきが、テスの頬に触れました。
目を開けたテスは、黒い鳥の影が空高くに舞い上がるのを見ました。
空を仰ぎます。
鳥たちを追って顎と目線を上げていき――
この世界でたった一つの忌むべき魂の行き場所、すなわち黒い太陽を恐れて、鳥たちが悲鳴のように叫びます。
飛ぶ鳥の三角形の隊列の、その先頭から体が崩れて黒い水となり、地に、野外礼拝所に降り注ぎます。
鳥たちは跡形もなく溶け、一直線に落ちてきて、野外礼拝所の掃除場で水しぶきをあげました。