8-2
文字数 2,730文字
……意識を取り戻してからも、テスはしばらく目を開けられませんでした。
体は重く、だるく、ようやく瞼をこじ開ければ、ベッドに仰向けに寝かされていること、そして……。
ひどく静かです。
白い正方形の石を貼りあわせた天井に、水の波紋が揺れています。
ゆっくり両手に力を入れてみると、思わず呻き声が漏れました。
ずきずきと痛む両手は頭上に上げられ、両手首を縛られています。
ベッドの枠に縛り付けられているのです。
引っ張ってみても動きません。
光がくる方向へ、テスは顔を向けました。
十歩の距離に壁があり、壁には六つの窓が並んでいます。
壁の両端には、戸がないアーチ型の出入り口が口を開けています。
その向こうは廊下で、光は廊下の窓から差しているのでした。
すると、
人かと思いましたが……
その影は
首を覆う羽毛が風にそよいでいます。
丸く膨らんだ胸。
人間のように二足で歩むもの。
テスは、その影の主が黄色と黒の
それが歩み寄り、姿を見せ、拘束されたテスを観察する様を想像しました。
部屋の中から
テスは部屋の奥側に顔を向けました。
まっすぐ伸びた金糸のような髪が、顔の両脇に垂れています。
窓や入り口から差す光の当たらない場所にいますが、色白で端正な顔や、長い髪そのものが眩しく見えました。
膝の上の両手は編み針を持っています。
編まれた赤い毛糸の布が女の膝に広げられ、傍らの小さな円卓には、赤い毛糸玉が乗っています。
女が手首を上げます。
右手で円卓の縁を探り、次にその上の毛糸玉の位置を確かめました。
左手は膝の上の編み物の上をたどり、その終端を掴みます。
針と編み物をテーブルに置き、女は慎重に立ち上がりました。
全身を白い
物を言おうにも、テスの乾いた喉からは、弱々しい息の音と呻き声が漏れるばかりでした。
その呻き声で、女はテスの頭がある位置を把握したようです。
テスの顔のすぐ横に膝をついて、覗き込むように顔を寄せてきます。
息を詰めているテスの前髪に触れ、額を撫でました。
左の眉をなぞり、思わず閉じた左目の
そのまま顎へと指を這わせ、顎から頬へ、頬から耳へと輪郭を確かめます。
女の手が布団の中に入ってきて、服の上からテスの胸を撫でました。
その感触で、薄手の服に着替えさせられていることがわかりました。
女の手はテスの胸を二、三度撫で回し、
下腹部へ。
唇が触れ合う直前、テスは声を絞り出しました。
テスの頬と鼻と目の上に、ばさりと女の髪が落ちました。思わず目を閉じます。
ややあって、廊下で少年の声が響きました。
階段があり、その下から呼んでいるのだと、反響の仕方でわかりました。
声変わりが終わったばかりの少年といった感じです。
女の髪と気配が呼気と共に遠ざかり、テスは目を開けました。
間もなく階段を上がる足音。
そしてまた、影が廊下から迫り、足許の出入り口を染めて部屋に入り込みました。
今度は実体ある者が現れました。
薄手のチュニックを纏う少年です。
リーユーと目があいました。彼は初めてテスが目覚めていることに気がついたようです。
見開かれた目には、
リーユーが動揺するのがテスにも見て取れました。
顔が赤く見えるのは、赤い空の光を浴びているからだけではないようです。
少年は感情を殺した声で答えました。