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文字数 2,107文字
テスは教会堂の裏手へ回り、墓地と木立を駆け抜けて、村を囲む高い柵に手をかけます。よじ登り、内側へと身を投げ、着地。
村の通りは舗装もされておらず、赤土には深い轍の跡が残されていました。轍の跡に沿って、テスは村の奥へ走ります。
役場すらない、数十戸の漆喰の家が並ぶ小さな村でした。
今やテスは悪い言葉つかいです。
事情はどうあれ小さな女の子を誘拐し、死に追いやったのですから。
テスは家々の間を抜け、公衆浴場に行き着きました。
背後で地響きがし、後ろから大きな黒い影が被さってきました。
人の頭の形をした影が、テスの体越しに公衆浴場の壁に差し、屋根へと伸び上がりました。
砂のにおいが立ちこめます。
テスは後ろを振り向きます。
巨人、というものを、テスはこの世界で何度か目にしてきました。
今テスの後ろにいるのもまた巨人で、それは鎧を纏っていました。
重装歩兵です。
夕日を映してテスの目を刺す磨き上げられた兜は、頭から首までを守る円筒形で、喉を覆う
テスは口を小さく開け、手を目の上にかざしました。
巨人は村を囲む柵の外にいます。
二体、三体と、次々大地から沸き上がり、最終的に七体となりました。
鎧を着込んだ巨人の膝と同じ高さに、村の二階建ての家屋の屋根があります。
巨人が歩く
巨人たちはテスを取り囲むように半円を描いて立ち、それぞれが前進を始めました。
二本の半月刀を抜いたテスは、巨人の群れへと左足を踏み込みます。
腰を右へ捻り、左手の半月刀を右肩の上に、右手の半月刀を左の脇腹にやり、構えます。
すぐに構えを解き、巨人たちの群れへと駆けていきます。
巨人たちが一斉に、その手に握る星球つきのメイスを振り上げました。
半円の包囲が縮まってきます。
テスはその半円へと
あたしは本当に、悪い、価値のない人間になってしまった――
真後ろの地面にメイスの星球が叩きつけられ、石つぶてがばらばらとテスの背を守るマントにぶつかりました。
土が水柱のように飛び散り、頭上から降り注ぎます。
今度は、蛇行しながら走るテスのすぐ左横にメイスが振り下ろされました。
続けて右前に。
テスは高く跳び上がり、地面にのめりこむメイスの星球、その凶悪な
着地しようとするテスの真上から、更にメイスが襲いかかります。
テスは、つむじ風の障壁を体の回りに張り巡らせました。
土と砂、石、埃、破壊された家の壁や梁、そして屋根を、テスを守る風が巻き上げていきます。
瓦礫混じりのつむじ風を、テスは正面にいる巨人にぶつけました。
テスは走ります。
ただまっすぐに走ります。
そして、巨人たちの作る半円の包囲を突っ切りました。
その家の陰に、二人の言葉つかいの姿を見つけました。
その光を顔に浴び、何事かと振り向いた言葉つかいは、途端に喉仏に半月刀の鋭い刃を受けました。
仲間の短くくぐもった悲鳴を聞いたもう一人の言葉つかいも、慌てて振り向いてテスを見ます。
何が起きたか確かめる間もなく、その男も喉を裂かれました。
テスはつむじ風の真ん中に立ち、両腕を上げ、半月刀を交差させ、振り下ろしました。
刃についた血が払われ、地面に二本の血の直線が描かれます。
つむじ風がやみます。
テスの頭と肩に、血しぶきが落ちてきました。