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文字数 1,644文字
道中、話の内容から、サラが言っていた男女二人連れの行商人というのが、ミスリルと彼の連れ合いであることがわかりました。
今はその女性が一人で荷の管理をしており、テスが見つからなかった場合はこの町で落ち合う予定だったとのこと。
中にはトラックが一台。
開け放たれた荷台に女性が座り、足を垂らし、ランプを頼りに帳面をつけていました。
テスはその顔を覚えています。
ほとんど囁くように礼を言い、トラックの横をすり抜けて、ガレージの奥に向かいました。
入り口からの光はトラックに遮られ、ほとんど届きません。
板壁の破れから差す黄昏の光が、錆びた蛇口を暗がりに浮かび上がらせています。
栓をひねり、水をへこんだ金盥に落とすと大きな音がしました。
その音に紛れて二人の声が聞こえます。
彼は………………どういう………………
……の話では………………
別に……………………さ。
信じるっていうか………………
そりゃあ…………から………………放っておくわけにも…………
…………仕入れた………………
話題がテスについてから彼らの商売についてへと変わるのを確認し、テスは水がこぼれ続ける金盥に目を落とします。
ひどく
手をのろのろと水に差し入れるも、水の感覚がわかりません。
その顔に爪を立てます。
激しくかき回します。音を立て、水が周囲に飛び散ります。
それでも水面に像を結ぼうとする自分の顔を、テスは自分の手で壊し続けます。
アエリエと呼ばれていた女が小走りでやってきて、水をかき回すテスの手に触れました。
そして、息をのみます。
テスはそれを、自己嫌悪が極まったゆえの症状かと思っていたのですが。
アエリエがテスの額に手の甲を当てました。
途端に、急激に眠くなってきます。
視界が暗くなります。
しばらくして意識を取り戻したとき、テスは背中にトラックの振動を受けます。
吐き気はひどいままです。
町に……
危険なのはわかってるわ……
……ベッドで休ませてあげないと…………