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文字数 2,501文字
生者は死者のように徘徊し、生きている死者を襲います。
棒やさすまたでつつかれて、死者たちが今日一日の労働に駆り立てられていきます。
昨日、あの男たちは、自分たちの手を血で汚そうとはしませんでした。
代わりにテスを倉庫に閉じこめて、彼らの執行部員、汚れ仕事を請け負う人間を呼びに行ったのです。
その間に倉庫の錠を破り、オルゴにテスを救出させたのがタシでした。
テスは弱い光を宿す目をタシに向けました。
老人は砂の詰まった歯車のような調子で続けます。
悪い言葉つかいは死者を蘇らせ、働かせ、貧しい生者に看守の職を与えた。
悪い言葉つかいが死んでも、死者は多くの生者に存在を認知されたため、消えずに残った。
それに、生者たちのほとんどは、金づるになる私らが消えるのを望まなんだ……。
部屋の戸が開き、テスとタシは身構えながら振り向きました。
黒ずんだ壁の殺風景な部屋に入ってきたのは、キユとオルゴでした。
多少はましになったものの、痛みは皮膚と同化してテスの全身に貼りついていました。
一番痛むのは顔と頭を庇った両腕で、こちらはへし折られる寸前でした。
痛みは惨めな気分にさせ、惨めな気分は寒さを引き立てます。
オルゴは顔を引き攣らせました。
目の前の純粋そうな青年の口から「殺す」という語が飛び出たことに、ショックを受けているようです。
あたしたちは死なないし、生きている人間は自殺をするかもしれないけれど、もうそれもできないから。
いつか生者が死に絶えて、あたしたちに対する観測者が消えれば、あたしたちも消える。
それまでは、何があっても我慢する。
テスは何とも返事をしかねて俯きました。
一時の鐘が鳴りました。
死者たちは、キユもタシも、仕事をしなければならないはずです。
それからオルゴを見ました。
オルゴ。
この人と一緒に旅をできたらどんなに楽しいだろうと思います。
一緒に歩き、一緒に乗り物に乗り、共に眠り、共に食事をし、見たことや聞いたことについて互いに話をし、問題があれば一緒に考えてくれる、話しかけることができる、笑いかけることができる。
そういう相手といられたら、どんなに素晴らしいだろう。
テスはつくづく思いました。
どうせあてのない旅なら、俺と一緒に来たらどうだ。
そうオルゴに持ちかけられたのは、昨日、死者たちの隠れ家で寝る直前のことでした。
するとキユがシャツの胸ポケットに手を入れ、何かをつまみ出し、テスに差し出しました。
指輪です。
テスは大きく目を開きました。
テスにはもうこれ以上、好意を拒むことはできませんでした。
そっと手を差し出すと、オルゴがテスの掌に指輪を置きました。
そうしながら、テスの伏せがちな目を覗きこんできました。
テスは誰とも別れたくなかったし、オルゴやキユやタシも、そんなテスの気持ちを感じているみたいです。
この世界の人の心は
たまに優しい人や一緒にいたいと思える人に出会えても、こうして自分から別れなければなりません。