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文字数 2,205文字
壁にもたれかかっていたはずが、気付けば
眠っても眠っても眠く、もっとずっと寝ていたいとテスは思いました。
異様な眠さとだるさですが、起きて歩き、飲むものと、食べるものを探さなければなりません。
テスは寒さに震えながら、敷布に手をついて起き上がりました。
座り込んで指で髪を整え、縛ります。
テスはアルネカが消えた街の、中枢と呼ばれる場所にいました。
たとえ廃墟と化していても、祈りの場にいると安心できました。
何もない部屋を出て、窓から差し込む朱色の光で染まった廊下を歩きます。
隣の部屋は広く、足踏みミシンがいくつも並んでいました。
その部屋の先の階段を上ると、白塗りの
屋上は洗い場で、かつてこの建物で働いていた女たち、テスの服を洗ってくれた女たちが生き残っているような錯覚に陥りましたが、気配を探っても、見つけられるわけがありません。
屋上に
錆び付いた
そこからは街を一望できました。
左手には一対の円錐の屋根を持つ
更に丘を挟んだ向こうには、海が広々と展開されています。
真後ろには――
地平線と空の間を黒く塗る、化生の大群でした。
これほどの大群は見たことがありません。
右を向いても左を向いても、その端は見えません。
鳥か虫のような、飛ぶものの形をしています。
それがこちらにやって来ます。
四台のジープが来ます。
一列に連なって、中枢の外、水道橋に沿って延びる道路を走っています。
テスは人間が好きでした。
人と一緒にいたかったのです。
仲間に入れてもらえなくても、そばにいさせてもらえればよかったのです。
人に笑っていてほしかった。
楽しく生きていてほしかった。
人はテスを殺す。
テスも人を殺す。
敵同士になってしまったのです。
テスは大気をまとって塔から飛び降りました。
着地の寸前で静止し、爪先をゆっくり地につけます。
中枢を横切り水道橋へ向かいました。
中枢を囲む城壁から民家の屋根に飛び降り、その後は、屋根の上を通って移動し、水道橋に飛び乗ります。
アーチ型の橋を上下左右に積み重ねた形の水道橋は、長い間風に洗われ、砂一粒落ちていません。
ただ時折雲間から差す光によって落ちる自分の長い影に気をつけながら、テスは走りました。
テスは気配をたどり、水道橋から飛び降りました。
音もなく屋根の上に降り立つと、声が聞こえてきました。
しゃがんで気配を消し、屋根の上を移動します。
ついにはっきり聞こえるようになりました。
二人の男がいました。
一人はジュンハでした。機関車の中で会ったサイアの父親です。彼もテスの顔を覚えているはずです。
もう一人の男も、機関車で会った男です。若く、体つきががっしりした、赤毛の男です。
でも実際に起きていることときたらどうだ?
その力を誰もが自分のために使ってる。俺も、あんたも、あの緑髪も。
その結果いがみあって、殺しあって、そうだろ?
誰にも正しいことはできない。
この力で何かを悟ることもない。
むしろ力によって道を踏み外してる。