第52話 八日目(2)

文字数 587文字

鶴来と賀喜が宗祖の元に通されたのは、言われた通り三十分後だった。その程度の時間で総代が戻る筈もないが時間厳守。変に気を遣われるのが警察なのかもしれない。
アウターを脱ぎながら事務棟の二階へ。匂いも音もとっくに慣れたものばかり。賀喜の視線に促されて扉を開けた鶴来は、今日はリクライニングに頼らずに身を起こす宗祖を見つけた。
「遅カッタデスネ。」
第一声が呻き声でないのもいつもとは勝手が違う。
「おはようございます。今日は調子が良さそうですね。」
鶴来の挨拶に反応した宗祖の顔には活力らしきものが漂っているが、決して笑顔ではない。
「イイトイウコトハナイデス。試シニ今ノ私ト変ワッテミマスカ?」
またひとつ大人になった鶴来は笑顔に逃げた。
「すいません。そうですね。調子が悪くはないということですかね。」
宗祖の視線は並んで微笑む賀喜の顔を捉えた。
「挨拶ハシナインデスカ?」
調子よく喋り出した宗祖に遠慮していたつもりの賀喜は、今日も指摘された自分の減点要素を短く笑った。
「おはようございます。失礼しました。」
二人がいつもの椅子に腰かけると、宗祖は乾いた唇を気に掛けた。どこから話をすればいいのか教えるのが鶴来と賀喜のルーティン。
「昨日は総代が、…。」「大丈夫デス。覚エテマス。」
気遣う賀喜の言葉を遮った宗祖は静かに壁を眺め、やがて目を細めた。鶴来がレコーダーを出せば、きっと昔話の始まりである。
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