第六十話 軍服骸骨の異能
文字数 1,470文字
「シナヅさん……無事だったのですね」
ルフトはほっと胸を撫で下ろす。
先ほどのダメージで再起不能になっていないかと心配だった。
『…………』
シナヅは砂埃を払い落としながら近付いてくる。
あちこちに木片が刺さっているように見えるが、単に骨の隙間に引っかかっているだけらしい。
シナヅはそれらも丁寧につまんで取り除く。
一見するとボロボロであるものの、シナヅは全くの無傷だった。
骨にはヒビ一つ入っていない。
『小官の身体は圧縮された数千種類の物質によって構成されている。中には不壊の金属も混ざっている。総計すれば広大な大陸がいくつかできる程度の体積だ。たとえ隕石が直撃しようが死なない』
シナヅの能力である物質吸収は、蓄える物質そのものがシナヅの骨の一部となっている。
故に硬い物質を集めればその分だけ防御力も上がるのだ。
彼の言葉を信じるのならば、いくつもの大陸に値する量の物質を圧縮して今の身体を構成しているのだという。
質量保存の法則を完全に無視しているものの、ここまでのシナヅの行動から考えると信憑性は高い。
そもそも、マジカルアーマーで自由に武器を現出させられるルフトが何かを言える立場ではなかろう。
(やっぱりシナヅさんも滅茶苦茶な能力だ。実質的に無敵じゃないか……)
とにかく、結論としてシナヅも立派な異世界人だった。
異常な性格を差し置いても、この世界では有り得ない破格の戦闘能力を誇る。
感心するルフトは、着込んだローブのシミに気付いた。
スライムが四散した際に付着した溶解液である。
マジカルアーマーは少しも損傷していない。
溶けて感染するかもしれないという危惧は取り越し苦労だったらしい。
そうこうしているうちにスライムの再生が終わった。
スライムは再び触手を伸ばすと、溶解液を散らしながら這い迫ってくる。
「まずい……!」
ルフトは瞬時に後退する。
接近戦は危険だ。
距離を取って戦える武器を揃える必要があった。
ところがシナヅはその場から動かず、身体を僅かに逸らすだけで触手を回避した。
溶解液の飛沫がかかるも、軍服が白煙を上げるだけでシナヅ自身は無傷である。
『知能の低いモンスターだ……』
嘲るシナヅの指先から銀色の金属が滲み出し、鎌のような形状に変形した。
シナヅはそのままスライムを高速で切り裂いていく。
水音を立てて飛び散る粘液。
スライムは再生の間すら与えられずに細かく刻まれる。
くっ付いて元に戻ろうとする端から鎌で切断されていった。
その最中、シナヅは手を伸ばして粘液の欠片の一つに触れる。
溶かされるかと思いきや、逆にシナヅの手がスライムを吸収し始めた。
物質吸収の能力で粘液を取り込んだらしい。
シナヅは再生しようとするスライムを切り付けながら、空いた手で次々と欠片を取り込んでいく。
やがて残ったのは綺麗な色をした小石のようなもの――核であった。
ここまで来ると、スライムは水分を摂取しなければ粘液を分泌することもできない。
シナヅは無力な核を掴むと、おもむろに力を込めて砕く。
核は骨の手に沈み込むようにして吸収された。
背後を振り向いたシナヅはルフトに告げる。
『躊躇せずに踏み込めば十分に切断可能だった。ただ、素人なりの努力は認める。まだまだ発展途上で成長の余地がある。精進するといい』
「あ、ありがとう、ございます……」
ルフトは礼を言うことしかできなかった。
ルフトはほっと胸を撫で下ろす。
先ほどのダメージで再起不能になっていないかと心配だった。
『…………』
シナヅは砂埃を払い落としながら近付いてくる。
あちこちに木片が刺さっているように見えるが、単に骨の隙間に引っかかっているだけらしい。
シナヅはそれらも丁寧につまんで取り除く。
一見するとボロボロであるものの、シナヅは全くの無傷だった。
骨にはヒビ一つ入っていない。
『小官の身体は圧縮された数千種類の物質によって構成されている。中には不壊の金属も混ざっている。総計すれば広大な大陸がいくつかできる程度の体積だ。たとえ隕石が直撃しようが死なない』
シナヅの能力である物質吸収は、蓄える物質そのものがシナヅの骨の一部となっている。
故に硬い物質を集めればその分だけ防御力も上がるのだ。
彼の言葉を信じるのならば、いくつもの大陸に値する量の物質を圧縮して今の身体を構成しているのだという。
質量保存の法則を完全に無視しているものの、ここまでのシナヅの行動から考えると信憑性は高い。
そもそも、マジカルアーマーで自由に武器を現出させられるルフトが何かを言える立場ではなかろう。
(やっぱりシナヅさんも滅茶苦茶な能力だ。実質的に無敵じゃないか……)
とにかく、結論としてシナヅも立派な異世界人だった。
異常な性格を差し置いても、この世界では有り得ない破格の戦闘能力を誇る。
感心するルフトは、着込んだローブのシミに気付いた。
スライムが四散した際に付着した溶解液である。
マジカルアーマーは少しも損傷していない。
溶けて感染するかもしれないという危惧は取り越し苦労だったらしい。
そうこうしているうちにスライムの再生が終わった。
スライムは再び触手を伸ばすと、溶解液を散らしながら這い迫ってくる。
「まずい……!」
ルフトは瞬時に後退する。
接近戦は危険だ。
距離を取って戦える武器を揃える必要があった。
ところがシナヅはその場から動かず、身体を僅かに逸らすだけで触手を回避した。
溶解液の飛沫がかかるも、軍服が白煙を上げるだけでシナヅ自身は無傷である。
『知能の低いモンスターだ……』
嘲るシナヅの指先から銀色の金属が滲み出し、鎌のような形状に変形した。
シナヅはそのままスライムを高速で切り裂いていく。
水音を立てて飛び散る粘液。
スライムは再生の間すら与えられずに細かく刻まれる。
くっ付いて元に戻ろうとする端から鎌で切断されていった。
その最中、シナヅは手を伸ばして粘液の欠片の一つに触れる。
溶かされるかと思いきや、逆にシナヅの手がスライムを吸収し始めた。
物質吸収の能力で粘液を取り込んだらしい。
シナヅは再生しようとするスライムを切り付けながら、空いた手で次々と欠片を取り込んでいく。
やがて残ったのは綺麗な色をした小石のようなもの――核であった。
ここまで来ると、スライムは水分を摂取しなければ粘液を分泌することもできない。
シナヅは無力な核を掴むと、おもむろに力を込めて砕く。
核は骨の手に沈み込むようにして吸収された。
背後を振り向いたシナヅはルフトに告げる。
『躊躇せずに踏み込めば十分に切断可能だった。ただ、素人なりの努力は認める。まだまだ発展途上で成長の余地がある。精進するといい』
「あ、ありがとう、ございます……」
ルフトは礼を言うことしかできなかった。