第五十八話 軍服骸骨の受難

文字数 1,384文字

 ルフトとシナヅは東門へと向かう。
 ゾンビの大群の襲撃で一波乱あったものの、実質的な損害はなかった。
 このまま連戦でも問題ない。

(シナヅさんの性格も判明したしな……)

 ルフトは隣を歩くスケルトンを一瞥する。

 シナヅは、敵対者を必要以上に痛め付けようとする加虐気質な異世界人であった。
 その執念は異様に深く、大して反応を示さないゾンビに対しても容赦がない。
 ある意味では、最も暴徒らと接触させてはいけないだろう。
 どのような拷問や虐待が始まるか分かったものではな。

 とは言え、シナヅの力が頼りになるのは確かだ。
 倫理的には見逃せないが、率先して戦ってくれるのはありがたい。
 戦闘能力も申し分なかった。

 日光下も平気で行動しており、ゾンビの大群を相手に無傷で立ち回っている。
 この世界における一般的なスケルトンとは全く異なる存在のようだ。
 おそらくゾンビ化した魔物でも倒せるだろう。

「ところでシナヅさんの能力は、どういったものなのですか? 差し支えなければ教えてほしいのですが……」

 ふと気になったルフトはシナヅに訊く。
 戦う姿を間近で見ていたものの、シナヅの能力はまだはっきりとしていなかった。
 そもそも肉体がスケルトンの時点で人間の枠組みからは外れている。
 どこを取っても謎だらけの人物であった。

 質問を受けたシナヅは虚空を見つめる。
 剣呑な感じはなく、単に考えをまとめているようだった。
 少し経ってルフトの方を向いたシナヅは答える。

『小官が扱えるのは、物質吸収の異能。触れたものを身体に取り込んで、形を変えて自由に放出できる』

 そう言ってシナヅは、近く壁に触れた。
 すると、触れた部分から壁にじわじわと穴が開いて広がっていく。
 瞬く間に人が通れるだけの穴が出来上がった。

 見ればシナヅの指先から手首にかけてが壁と同じ色になっている。
 開いた穴の体積の分だけ、壁の素材を吸収したのだろう。
 変化した色は数秒ほどで元の骨の色に戻る。
 全身のどこかへと浸透させたのかもしれない。

 残されたのは、壁に開いた大きな穴だけであった。

(なるほど、家屋から脱出する時に音もなく穴を開けたのはこの力のおかげだったのか……)

 ルフトは感心しながら納得する。
 ちなみに戦闘時に使った黒刀も、骨格に蓄えていた金属を成形しながら放出して作りだしたものらしい。
 汎用性も高いようで、かなり便利な能力だ。

「さすがですね。さっきも助けていただきましたし、僕としては本当に助かります」

『何を言う。あれは小官がいなくとも対処できたろう。敵は軟弱だった』

「いやいや、僕一人ではきっと苦戦して――」

 二人が穏やかに話していると、突如そばの家屋の窓を突き破って何かが飛び出してきた。
 それは薄い青色をした人間サイズの巨大な粘液の塊。
 不定形の魔物、スライムだ。

 蠢くスライムは驚異的なスピードで地面を這い進むと、伸ばした触手をシナヅに巻き付けて持ち上げた。
 ぎりぎりと拘束は締まっていく。

『むっ』

 シナヅは腕を伸ばして触手から抜け出そうとする。
 しかし、伸縮性に優れたスライムは伸びるばかりで一向に千切れない。

 身動きの取れないシナヅは、そのまま無造作に放り投げられた。
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